ゼロから始まる隔離病棟生活

@zawazawa1050

第1話

ふと気づいたら、そこは白い部屋でした。

寝て起きたら…のような感覚ではなく、本当に自分が瞬間移動でもしたのではないか、そう錯覚しそうなほど私にとっては突然でした。

(ここはどこ?)

私はまず違和感に気づきました。

声が出ない。

というよりも、自分の体なのに全然思うように動かせません。別に痺れたり縛られたりしている訳でもなさそうなのに。

すると私の意思とは無関係に、私の視線はせわしなく切り替わりました。窓の外は明るく昼間のようで、窓枠の下には置き時計が見えました。時計はなぜか外窓と内窓の間にあるようで触れなさそうです。

続いて視線は部屋の隅にある小さな机と、さらにそれよりも小さな、目の前にある白いテーブルへと移ります。そこで私は初めて、自分がベッドの上に座り込んでいることに気がつきました。

テーブルの上にはプラスチック製のコップと食器があり、私は…というより私の体はコップを手に取りマジマジと観察している様子です。するとシールが貼ってあり、そこには私の名前が書いてありました。

コンコン

(誰か来る!)

部屋の扉をノックする音に、私は内心ドキッと緊張しました。もしかして私をここに連れてきた人かも…と。

「優樹さん、入りますね〜」

現れたのは、いかにも看護士さんという風貌の女性でした。女性は何かを乗せた台車を押しながら部屋に入ってきました。

「優樹さん具合どうですか?お話できますか?」

私の名を呼びながら、女性はそう問いかけます。

「あ…あ〜、う〜…」

私は自分の口から確かに声を聞きました。

私の声色でしたが、まるで赤ちゃんのうめき声のような、とても言葉とはいえないものでした。

(あの、ここはどこですか?あなたは誰!?)

私は何とか声を出そうとしましたが、私の意思はまるで身体に伝わっていないようです。

「まだ難しそうですねぇ。ご飯もってきましたよ〜。食べれそうですか?」

いい匂い…あ、どうやら匂いはちゃんと感じられるようです。私の身体も…ややこしいので「ユウキ」と呼ぶことにします。ユウキは食事に興味津々な様子です。先程から何度もお腹が鳴っていたので空腹なのでしょう。私も腹ぺこですから。

しかしユウキはクンクンと鼻を動かしているだけで、箸をつけようとしません。

「お箸はこうですよ。難しそうですか?スプーンだとこうして…ほらこうですよ〜」

すると察したように女性はユウキに食事のレクチャーを始めました。ユウキは見よう見まねでスプーンを手に取ると、こぼしながらみそ汁を口に運びました。

(まさか、こんなことまで忘れちゃってるの?)

私は徐々に、事の重大さが分かってきました。

ユウキがさっき窓の外を見たときに視界に入った

のは、病院の大きな看板。あれはどうやら私がいるココのことなのでしょう。

私は、喋れない赤子のような状態になって、ココに入院したようです。

ご飯は残さず平らげました。でも服は汚れました。

参ったなぁ…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る