古書に書かれてあることは(前編)
本を探す。それも、ただの本ではない。人ではなくなってしまった妹と、話すための本。そんな物、神殿に置いてあるかどうかすら怪しい。それでも、頼ることができるのは、そこしかないのだから。アリシアは左の傍らに聖書とこの国の地図を置いて、机に向かった。何かあれば書き残せるようにと、手元には、羽ペンと紙を用意してある。古書であればあるほど、持ち出すことは難しくなる。有益な情報は、紙に書き写した方が良いのだから。ベルトルトに頼んでおいた本は、右の傍らに積み上がっている。そこから本を抜き出して、読む。1冊目の題名は『聖なる時代、omrekの民 』遙か昔に存在し、既に滅びた国の史書だ。本を開く。
『omrekの王、rtawdによる[]政策は、失敗に終わった。[]戦線は崩壊し、wswhdやgrttらも戦死した。omrekのant隊は散り散りになり、各国の傭兵となることで食いつないだ。smrgの鉱山はcltwaの物となり、[]姫は、かの国の捕虜となった』
そこまで読んで、アリシアは本を閉じた。この本は、インクが滲んでいて読めない箇所が多い。遙か昔の戦の事が事細かに書かれていることから考えても、筆者はこの戦で実際に従軍していたのだろう。興味がないわけではないが、今のアリシアが必要とする知識は、この本には無い。次に手に取った本には『Siiulsu ud Tespi ud rsice Ltrtr i ptn ud rhn Jhhnet』と書いてある。本を開く。
『Shun Se sc dn fre, fre Hml a. Dr Sneutrag gb en wre Lct. Ru oe rne? E it brl i Odug. Se sn brl. Ac wn ds Ghins en dne Sen it, it dr Gaz ei. Ghn Se zsme, rdn Se mtiadr, ih bn mr sce, ds mre en gtr Tg si wr. Wn Se e ac z enm s gtn Tg mce wle. Gt, ir Simn z hrn. Vrikn Se smrg i ds Wse, ds de Sen gfne ht, ud gbn Se inn Koe as Sehamnwie ud Lrerlten. Vrekn Se en Hn i Wse ud brhe Se se mt dr adrn. Wn se dr di Hr efnt hbn, slts d se hrn.』
それは、あの即位式の時、聖女が唱えていた言葉。妹の言葉と、よく似ている。今はまだ、この本を読むことはできない。アリシアはベルトルトを呼んだ。背後で、扉が開く音がする。振り向かずに、古言語の辞典を借りてきてもらいたいと頼む。少しして、扉が閉まる音がした。アリシアは、最初に開いた本を、もう一度開く。その内の1節を、指で辿る。
『smrgの鉱山はcltwaの物となり』
この国の貴族として生まれたアリシアは当然、この国の名を知っている。この国はクロイツァ(Krtwa)皇国だ。国名や地名は、古言語を色濃く残していると聞く。『cltwa』と『Krtwa』の字は、よく似ている。アリシアは震える手で、机に置いてある地図を開く。エーレンフェストの領地に、今はもう採掘されていない鉱山がある。ずっと昔は、大粒の碧色の鉱石を生産していた山が。次いで、読めない言語で書かれた本を開く。書かれた字の上に、指を置いて。先ほどよりもゆっくりと、動かしていく。やがて、アリシアはその節を見つけた。
『Se smrg i ds Wse, 』
その節の意味は分からない。それでも、同じ単語があることは分かる。『smrg』という単語。前後の言葉からの推測にはなるが、それはおそらく、かつて採掘されていたという鉱石を指しているのだろう。鉱石は、魔術の触媒となるものだ。ここに書かれていることが、魔術的な儀式であるのなら。実行すれば、もしかしたら。妹と、話ができるのではないかと。根拠はない。ただの、推測。それでも、体の震えが止まらない。手と机の間に、影ができている。その影の色が、徐々に濃くなっていく。即位式の出来事を、思い出す。恨まれているかもしれない。憎まれているかもしれない。それでも。会って、話さなければならない。そうしなければ、アリシアは先に進めないのだから。
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