議会とダヴィド

第2王子の教育係を、どのようにして決めるのか。今日行われるのは、そのための話し合いだった。会議の場に、アリシアとダヴィドが、それぞれに支持者を連れて集う。ダヴィド側の貴族が、勝ち誇ったような表情で、口を開いた。


「クロイツァ皇国の王に、最も必要なもの。それが魔術です。教育係というのであれば、魔術に長けたダヴィド様こそが相応しい」


ダヴィドはアリシアを見下している。昔から、そうだった。マクシミリアン家の当主、アリシアの父が話すこと。それを、真実だと思っているのだろう。身内であれば贔屓することはあれど、実力を低く見積もって貶すことなどないと。それは、大きな思い違いだ。だが、ここでその思い違いを指摘する必要はない。実力の伴わない言葉に意味などないし、今は侮られていた方が、都合がいいのだから。


「あら。決闘もせず、優れていると主張なさるの?」


優雅に微笑んで、アリシアはそう言った。その言葉に、ダヴィドが怒りをあらわにする。


「決闘などすれば、己の惨めさを晒すだけの結果となりかねませんからね。俺なりの優しさのつもりだったのですが、まさかあなたが死に急ぐとは思いませんでした」


アリシアは、大げさに驚いてみせた。


「まあ。それほどの自信をお持ちなのに、力を加減することが出来ないと仰るの?」


ダヴィドが面食らって、言葉を失う。代わりに、彼の支持者が返答した。


「いえいえ。ダヴィド様ほどお優しい方は、そうはおられませんよ。ただ、身の程知らずの愚か者が、格の違いも理解せず、降参しなかったときのことを案じてらっしゃるのです」


身の程知らずの愚か者という言葉が、誰に対して使われているのか。それを分かった上で、アリシアは言葉を返した。


「それほどの愚か者が、この場に居るとは思えませんわ。教育係を決めると言っても、おそらく、話し合いでは結論は出ないでしょう。皆様のお時間を、結論の出ない話し合いのために、無駄にしたくはありませんもの。私は、ダヴィド様に魔術での決闘を挑みます。古くからの慣習に則った、魔術以外の使用を禁じる制約で」


ようやく元の調子を取り戻したダヴィドが、アリシアの後ろに控えるベルトルトを見ながら言う。


「それで、本当によろしいのですか? ご自慢の夫すら連れず、俺に挑んで勝てるとでも?」


アリシアは、笑みを深めた。勝つつもりが無ければ、そもそもこんな提案などしない。話し合いで結論が出ないとは言ったが、本当にそうだろうか。支持者の顔ぶれを見ても明らかだが、グヴィナーの支持者の方が、貴族としての格が高い。話し合いを続ければ、アリシアの側が不利になる可能性もある。それを避けるために、アリシアは決闘の話を出した。そのことにも気付かず、的外れなことばかり言うダヴィドに、負けるわけはない。


「ええ。私は、必ず勝ちますわ。どうぞ、負けた時のことを考えておいてくださいませ」


ダヴィドが苛立った様子で、席を立つ。


「いいでしょう。では、俺はこれで」


足早に去るダヴィド。彼の支持者たちは、すぐには追わなかった。何人かは呆れた様子で、アリシアの方を1度見てから、ダヴィドを追いかけた。アリシアは笑顔で、彼らを見送った。ダヴィドの態度は、全く貴族らしくないものだった。愚かなことだ。グヴィナーの支持者には、格式を重んずる者が多い。そんな彼らの前で、あのような振る舞いを見せてしまえば、失望されかねない。対してアリシアは、最後まで優雅な姿を見せていた。どちらがより、貴族らしいのか。それは、誰の目からも明らかだ。今はまだ、アリシアは力を示していない。それ故にグヴィナーの支持者も、完全には見放さなかったのだろう。逆に言えば、アリシアがダヴィドよりも力があると示せば、グヴィナーの支持者をこちら側に引き込むことも可能なはずだ。全ては、計算通りに進んでいる。後は、アリシアがダヴィドに、決闘で勝利するだけだ。アリシアは決闘の準備をするために、席を立った。そして、支持者たちに挨拶をしてから、ベルトルトを連れて部屋に戻ったのだった。

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