王城を目指して

妹と共に、朝食の席につく。妹はいつものように皿ごと飲み込んでから、お皿を吐き出した。そうして、アリシアの方に寄ってくる。アリシアは、食べる前に、アストリット家に使者を送った。情報を得るために。それと同時に考える。もし王位継承者が、ダヴィドとアリシアの2人だけになったのならば。これは、またとない機会だ。グヴィナー家に何らかの形で勝てば、王となることができるのだから。とはいっても、お互いに貴族であるのだから、自身の手を汚す勝ち方では意味がない。あくまでも、自身は清廉潔白であると装うこと。それが、貴族としての最低限の振る舞いなのだから。妹が、アリシアの腕に触れる。そこでアリシアは、朝食に手をつけていなかったことに気がついた。すっかり冷めてしまった朝食を取りながら、改めて考えを巡らせる。最も手っ取り早いのは、暗殺者を送ることだ。古くからの家柄である、グヴィナー家やマクシミリアン家は、裏社会にもそれなりの貢献をしてきている。だが、アリシアは生家を頼れない。エーレンフェストは騎士の家。裏より表、暗殺よりも守護に重きを置く家だ。アストリット家は新興貴族だ。カルラの性格から考えても、暗殺など、考えたこともないだろう。結局アリシアは、送られてくる暗殺者に対応することしかできない。そもそも暗殺者と一言で言っても、訓練された忠誠心の強い者を雇わなければ、失敗したときにアリシアの方が不利になることすらあり得る。妹が再び、アリシアの腕に触れた。先ほどよりも強く。考え事をしながら手を動かしていたら、いつの間にか朝食を食べ終えていたようだ。持ち続けていたナイフとフォークを揃えて、お皿の上に置く。そしてナフキンで口を拭いて、畳んでお皿の横に置いた。寄ってきた妹を抱いて、アリシアはその体をそっと撫でる。ただ1人、この世で誰よりも信頼できる存在を。そう。きっと妹であれば、誰よりもアリシアのために行動してくれるに違いない。だが、アリシアのために人を殺してくれ、などと……。


(そんな愚かなこと、死んでも頼まないけれど)


大切な妹。彼女を元に戻すための玉座であるというのに、彼女を危険にさらしてどうするというのか。それは本末転倒だ。地の月の穏やかな日の光が、窓から差し込んでいる。アリシアはひとまず、考え事を止めた。一朝一夕に答えが出る問題ではない。今のアリシアに出来ることは、次の報せを待つことだけなのだから。


────


妹との時間を過ごしていると、アストリット家に送った使者が還ってきた。王は病の床につき、今は第1王子が執務を肩代わりしているらしい。第1王子は評判が悪く、第2王子に任せるべきだという意見も多く出ているそうだ。第2王子はまだ幼く、自身では判断出来ないことの方が多いというのに。第2王子を強く推薦する者の名を聞いてみれば、思った通り。グヴィナーを支持する者ばかりだった。おそらくは、幼い第2王子の助言役として、実権を握るつもりなのだろう。ただ、第2王子はダヴィドを嫌っているらしい。そのため、グヴィナーの政敵たちには、アリシアを助言役として推薦している者もいるそうだ。あのお茶会で蒔いた種は、確実に芽を出している。アリシアは次に、王城に使者を出した。


『幼い第2王子には、教育係が必要だ。アリシア・エーレンフェストは、その任に相応しい』


使者は、その書状を携えて、城へと向かう。裏で戦うのが難しいのならば、相手を表に引きずり出してしまえばいい。おそらくグヴィナー家は、この教育係の任には、アリシアよりもダヴィドの方が相応しいと言うだろう。そうなれば、こちらの思惑通りだ。アリシアがダヴィドよりも優れているところ。グヴィナーの跡取りとして何不自由なく過ごしてきたダヴィドよりも、自らを高めなくてはマクシミリアン家の娘として生きることすら許されなかったアリシアの方が、研鑽の積み重ねで負けるわけが、ないのだから。

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