第41話予算は考えよう
☆★☆
あれから小10分。
俺は、まだ奇跡的に冷蔵庫に残っていた冷蔵ラーメンを
……緊急だ。
パッケージを開ける時にチラッと賞味期限が3日過ぎているの見えたけど……まあ3日ぐらい……大丈夫だろ。
……うん。
俺がちょっぴり後ろめたい気持ちに駆られながら料理している事など、露知らず。
母さんは、
「……良い匂いしてきたわねー! ありがと、ありがとうね~!」
「……どーも、どーも」
香ばしい匂いが部屋に充満してくると、まだ出来ていないのに、台所に立っている俺に熱い視線を送ってくるのが背中越しに分かった。
「へい、お待ち……」
「キター! キタキタキター!」
そして、出来上がったのをどんぶりに入れ、テーブルに置いた瞬間――、母さんは豪快にズルズルと啜り始めた。
俺は最初、あまりの勢いでラーメンを口に流し込んでいく母さんの様子を呆気に取られて、見ていたが、丁度半分くらい食べ終えた頃。
ふと、我に返ったように、ピタリと母さんは箸を止め、神妙な顔つきで、ほっぺを気にするように触りながら、
「……朝からラーメンって……お肌に大丈夫かしら?」
「冷蔵庫にそれしかなかったんだから、しょうがないじゃん」
「まあ、そうなんだけどねー……」
「……」
そう言いつつも、二三度、自分のほっぺを触って心配そうにしている母さん。
安心しろ。
……身内フィルター入っていたとしても、母さんの容貌は40代中盤ってのを全然感じさせないから。
お酒がまだ抜けきっていないからだと思うけど、言動だってとてもとても……。
俺はまた残りのラーメンを、さっきよりはゆっくりと食べ始めた母さんの食事風景をただただ眺めていた。
☆★☆
肌がどうのこうのとか言いつつ、結局汁まで全部飲み干した母さん。
落ちついた母さんは、何で明日ではなく今日帰って来たのかを俺に言った。
「つまり……本当なら明日帰ってくるはずだったけど、ホテルの宿泊日数を一日間違えて、ホテルを追い出されたと……」
「そうなのよ~もう大変だったんだから~」
てへ、と苦笑いをする母さん。
「……もう一日ぐらい延長出来ただろ……何してんだよ」
すると母さんは、露骨に顔を歪ませ、
「ひどい……。早くみっくんとモミジちゃんに会いたくて、片道150㎞運転して帰って来たのに……。そんな酷い事言われるなんて、母さん悲しい……」
そう言って、シクシクと嘘泣きまで始めだした母さん。
「……だったら何で何も食べてなかったんだよ」
母さんは俺や紅葉と違って、料理の「り」の字も出来ない人だけど、それ込みで考えても、コンビニとかで軽食を済ます事は出来たはずだ。
なのに、冷蔵庫にあった缶ビールは何本か開けた癖に、何も口にしてなかった。
俺が率直に思った疑問をぶつけると、
「そ、それは……愛するミッ君の手料理が食べたくて……ね?」
「……」
その時、母さんの目が明らかに泳いだ。
そして、一瞬だけ視線がリビングの隅に置かれていた母さんの黒いスーツケースの方に向けられて、俺は確信した。
絶対コレあれだわ……。
「……母さん」
「ん? んん?」
もうバレているのに、口をキュッと閉じて、シラを切ろうとする母さん。
俺は、スーツケースを人差し指で指差して、ため息交じりに言った。
「……お土産買いすぎ」
母さんは出張のたびに、必ずそこの土地のお土産を買ってくる。
それ自体はいいんだけど、
今回も……。
俺がはぁとため息をつくと、母さんは焦ったのか、ジタバタと手をばたつかせ、
「……で、でもね! ミッ君が好きなスイーツだって、一杯買って来たんだよ! ほら、高級芋菓子とか! ミッ君、前に好きだって言ってでしょ?」
「……好きなのは紅葉だよ」
「あ、あれ? そうだったかしら? ……やだー私ったらーアハハ……」
「……」
この後、紅葉が起き上がって来るまでリビングの空気が地獄だったのは言うまでもない。
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