第26話心をチューニング


「……」


結構大きめの声で呼ばれた西条。


だが、耳にイヤホンをして音楽を聴いているせいか聞こえてないみたいだ。


そのまま、何事も無かったように鞄を肩に掛けて、教室を出て行こうと扉に向かっていった。


「ちょ、ちょっと西条さーん! 無視!? それはないって!」


声を掛けたのに、まさか無反応とは予想もしてなかったのか。


声を掛けた張本人である工藤が立ち上がって、西条が帰ろうとするのを慌てて止めに行った。


工藤 ルミ。

学級委員長でクラスで2番目のモテ女。


学級委員長って言うと、優等生っていうイメージかもしれないが、こと工藤に関して言えばそれは当てはまらない。


工藤の見た目を一言で表すならば『ギャル』だ。


ゆるくパーマをかけた茶髪。

校則ギリギリ、というかたまに生活指導の先生に連行されるぐらいにすれすれのスカートの短さ。

肌はこんがりと茶色に焼けている。


そんな工藤が、なぜ学級委員になったのかというと、ひとえに『コミュ力』だろう。


……工藤と一度話すとわかるが、めちゃくちゃ話が弾むし、楽しい。


それこそ時間を忘れるぐらいに。


そしてそれは俺に限った事じゃない。


誰でも、だ。


俺が思うに工藤は聞き上手で、人の心をチューニングするのが上手いんだと思う。


相手の話をひたすら相槌を打って聞いて、たまに一言二言ボソボソッと挟む。


そして、それがまたピンポイントを突いているもんだから、話している側は楽しくなってきて……。




だけど、俺はちょっと最近工藤と意識して距離を置くようにしている。


え? さっき話したら楽しいって言ったくせに矛盾してるって?


ちげーよ。


確かに話すと楽しいけどさ、それで全てがそうなるってもんじゃない。


工藤と話していると……自分の腹の底の裏の裏まで勢いで漏らしてしまいそうで怖い。


口を滑らす、って奴だ。


一回やらかしたしな……、思い出すだけで頭いてぇ……。


時計の針を戻せるなら、なかったことにしたいぐらいだ。



……そう、何を隠そう俺が西条に告白したのは、工藤に太鼓判を押されたからだ。


誰にもバレないように心に留めていた西条への気持ち。


あの時、工藤に言わなきゃ、なぁ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る