第25話帰るもの


そして、そんな悶々とした状況が続いたまま、帰りのHRが始まってしまった。


西条も何も言ってこないが…。


俺はまだ悩んでいた。


(やっぱり正直に話した方がいいか? いや、でもやっぱり皇の事は伏せた方がいいよな。もっと厄介なことになりそうだし……)


詰んでる。


詰んでるよ、俺。


こういう時、どうすればいいんだ? どういう言い回しをすれば、一番穏便になるんだ? わかんねー。わかんねーよ……。


うじうじ悩んでも、何も解決できない事は分かってるが、行動に移せない。


頭を抱えていたその時だった。


急に昔の事を思い出した。


——高校に入ってすぐの5月ぐらいの頃。


部屋で、リリースされたばっかりのスマホゲーをポチポチプレイしていたら、突然紅葉が部屋に入ってきて、俺のスマホを取り上げて、


「お兄ってほんっとーにダメだよね。思わせるだけ思わせといて、肝心な所で役立たず! ヘタレっていうかさー。そういうことされると、女の子は傷つくだけし頼ってくれないんだよ? 分かってる?」


「……いきなり何の話だよ」


「分かんないの?」


「分かんねーよ。てか、俺のスマホ返せよ。今良い所だったのにさ」


「……」


「な、何だよ。その言いたげな目」


「別に。ただ、お兄のダメ男っぷりに呆れているだけ」


「ダメ男……? もしかして俺の事か?」


「他に誰が居るの?」


「……はぁ。ったく何にキレているか知らないけどさ、俺に当たるなよな」


「当たってない! ったく、なんでこんなお兄にみどりちゃんは……」


「西条がどうかしたか? てか、最近西条ウチに来ないよな。学校もここ1週間ぐらい休んでるし、電話してもかからないし。……紅葉、何か知っている?」


そうだ。


小中ずっと西条と居たが、西条は滅多なことで公欠以外で、学校を休んだりしなかった。


なのに、あの時西条は学校に1週間も姿を見せなかった。


最初は1年の頃はクラスも違った事で、あまり気にもしてなかったけど、さすがに3日ぐらいたった辺りから、変だなって思って何度か電話を入れていた。


不在だったけど。


丁度、タイミングが良いのか悪いのか、紅葉の口から、西条の名が出たことで、その事を思い出して聞いてみたが、


「…………さぁね。もう一回、お兄が電話したら出るんじゃない」


「んー。もう何回かやってるんだよなぁ」


「もう一回したら」


「俺がするの? 紅葉がしても……」


「しろ」


「は、はい」


急に口調を強め、スマホを俺に突き返して、「今すぐして」と迫ってきた紅葉に押されて、もう一度だけ西条に電話した。


でも、結局その一本も繋がらなくて、傍で見ていた紅葉も「どっちもどっちだね」とか呆れたように言って、部屋を出て行ったのを覚えている。


……って、どうしてこんな昔話を思い出したんだ? 今はそれどころじゃないってのに。


「——って事だ。みんなも知っての通り、来週文化祭がある。出席は午前しか取らないが、あんまりハメを外さないように。基本的に自由行動だが、あくまで校則の範疇だぞ。友達同士で動き回るには結構だが、去年映画館に行ってた生徒が他学年に居たからな? くれぐれも私の所にそういった連絡が来ないように。先生からは以上だ。解散」


最後しか聞いてなかったが、丁度、HRも終わったようだ。


解散の号令と共に、みんな一斉に動き出した。


部室に向かうもの。

文化祭の出し物をする打ち合わせをする為に何人かで集まるもの。

帰るもの。


——西条は「帰るもの」だ。(俺もだけど)


文化祭の話題で盛り上がる教室の喧騒を、聞きたくないとでもいいたげに、いつものヘッドホンを耳につけて、帰ろうと立ち上がった。


だけど、その時。


教室の前の方で固まっていた女子グループの1人が、大きな声で


「ねー、良かったら西条さんもあたしらと一緒にやらなーい!?」


西条に声をかけた。

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