第27話最終兵器

☆★☆


――教室扉前。


工藤は、西条が廊下へ出て行かないように、扉前に立って通路を塞いでいた。


「……そこどいてくれる? 帰りたいんだけど」


「どきませーん。というか西条さん。イヤホンして歩くの危ないよ? 私の声、聞こえてなかったでしょ~?」


苛立ちを隠せない西条とは対照的に、陽気な工藤。


一気にピリピリした雰囲気がちょっと離れた所にいる俺の所まで伝わってくる。


てか、工藤は誰も近寄れない雰囲気があったのに、よく今の西条にソフトに声掛けることできたな。


「用件は何? さっさと言って」


「うん。文化祭でうちのクラスは喫茶店をやるんだけどね。人手が足りなくて……。西条さん、助っ人に来てくれたらだいぶ助かるんだけど。ダメ〜?」


工藤の頼み。


西条は、はぁとため息をついて、


「別にそんなの私じゃなくてもいいよね? 悪いけど……他の人に頼んだ方がいいわよ。私はパス」


「そういうと思った~。でも、私は西条さんにしてほしいかな。何たって、西条さんが来てくれたら、それだけでウヒヒ……」


言ってる最中に、何を想像したのかは、工藤の頭の中までは覗くことはできないからわかりゃしないが、きっと録なもんじゃない事だけは分かる。


西条も、ちょっとドン引きしたように、


「……今、変なこと考えたでしょ」


一歩、工藤から距離を置くように後ずさりした。


それを見て、工藤はやや焦ったように、


「へ、変な事なんか考えて……ない、よ? た、ただね。西条さんが来てくれたら、それだけで他の学校からも男子共がわんさか来るから〜」


そこまで言うと、工藤は親指と人差し指で輪っかを作って、西条の機嫌を伺うように、てへっと舌を出して見せたが、


「……嫌。そういうの私がやりたくないって、ルミも知ってるよね?」


「そう言わずに、ね? お願い!」


「嫌」


「どうしても?」


「嫌」


「どうしても、どうしても?」


「嫌ったら嫌」


――何度か押し問答しているが、西条の考えが変わることはないだろうな。


文化祭で得た収益は、そのまま参加者に分配される。

でも、赤字になった場合も、皆で補填しなくちゃならない。

だから、どのクラスも必死になって、出し物を盛り上げようとする。


西条が参加すれば、西条見たさに人は集まるだろうから、クラスの収益も上がって、取り仕切っている工藤からすればウハウハ何だろうけど。


当の西条はお金にそんなに困ってるわけじゃないから、工藤の提案に惹かれるはずもない。


それに今は間が悪いと思う。(俺のせいです。はい)


もっと機嫌がいい時なら、引き受けたかもしれないけど……。


☆★☆


「どうしても無理?」


「ルミ、しつこい」


頑なに拒む西条と、粘り強く勧誘する工藤。


折り合う事なんてないだろ、って遠巻きで俺は2人のやり取りを眺めていたが、業を煮やしたのか、工藤は何やらスマホを取り出して、


「ん~、じゃあ私も最終兵器出しちゃおっかなぁ~」


「……何よ、最終兵器って」


何か企んでいるかのような工藤の言い回しに、西条は呆れたように言った。


が、工藤に差し出されたスマホ画面を覗き込んだ瞬間、後ろから見ていた俺でも分かるぐらい身体を硬直させていた。


(どうしたんだ?)


何を見せられたのか、俺からは見えないから、何も言えないが、西条が動揺しているのだけは分かった。


そして、そんな西条の様子を――ニヤニヤと笑って楽しそうにしている工藤。


「ね、参加してくれるよね?」


「ルミ…ちょっとここじゃ……」


「あ、いいよ? じゃ、行こっか?」


「……」


明らかに元気がない西条だが、そのまま二人は教室を出て、どっかに行ってしまった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る