第19話私が先輩を好きになった理由⑤(皇視点)
(見られた――ッ!)
誰も居ないと思っていたのに、泣いているのを見られてしまいました。
かぁ、と一気に顔が赤くなるのが自分でも分かって、慌てて顔を両手で隠して、頭を膝につけて隠しましたが、もう手遅れでした。
その男の子――いえ先輩は、
「ご、ごめん! 声かけない方がいいと思ったんだけどさ……。これ君にはやくあげろって……西条に言われてさ……」
「……西条、さん?」
その時、最も聞きたくない人の名前が、先輩の口から出て、私は思わず顔をあげて、聞き返してしまいました。
――真っ白い無地のTシャツに、下は黒のジーパン。
手には、市販の湿布が数枚入った商品箱と、スポーツドリンクが握られていて、私に差し出してくる先輩。
「……何ですか、これ?」
自分でもビックリするぐらい、不機嫌な声が出ました。
「……君、さっきの試合で足を最後痛めただろ? だから、これ貼っとけって西条が……」
「いりませんっ! 私、足なんか痛めてないですっ! ほっといてくださいっ!」
負けた相手、しかも手抜きした相手から、そんなものを貰うなんて、惨めで耐えられません。
「いや、でも……。西条が……」
先輩はムキになっている私に、困った顔で私を見つめていて、どうするべきか迷っている様子でした。
「いいって言ってるじゃないですか! あっち行ってください! 何なんですか? 貴方も私の事馬鹿にしてるんですか!」
「馬鹿に……? 俺が? 何を?」
「何をって……何で……う、うぅ……」
「え? あ? ちょ、ごめん! 俺、何か変な事言っちまった?」
先輩は全く悪くないのに、この悔しさと苛立ちを誰かにぶつけなければ可笑しくなってしまいそうで……八つ当たりしてしまいました。
当然、全く身に覚えのない先輩は、最初きょとんとしていましたが、その顔を見ていると、余計に自分が惨めな気持ちになって、やっと止まっていた涙が、まだ出てきちゃって。
先輩は、私がまた泣き出すとは予想外だったのか、ポケットからあたふたと黒いハンカチを取り出して、「使って」と私にくれて、そして私が泣き止むまで、地面にしゃがんで待ってくれました。
……今思うと、先輩には私の顔面が涙でくしゃくしゃになった顔見られていたんですね……最悪。
まあ、先輩の記憶からは抜けているようなので、大丈夫ですが!
…忘れられているのは、それはそれで癪に触りますけど。
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