第18話私が先輩を好きになった理由④(皇視点)


不意を突いた、西条先輩が繰り出した最後のサーブはネット手前に落下。


試合開始直後なら余裕で打ち返すことが出来たチャンスボール。


反射的に、私も前に走りだそうと、一歩目を踏み出そうとしました。


ですが、その瞬間。


ズキッと足に強烈な痛みが走りました。


(ッ――! ……これぐらいで――ッ! まだ私はやれるッ!)


スタートが一瞬遅れました。


それでも私は走って、精一杯ラケットを伸ばして、倒れこみながらもボールを掬い上げようとしました。



でも。



ボールは私を嘲笑うかのように、地面に2回、3回、小さくテンテンテン……、とショートバンドしてしまいました。


「ゲームセット、マッチウォンバイ西条。6-0、6-0」


審判がそうコールしても、私の頭は真っ白でした。


(え? え?)


何も出来なかった。


脚もヒリヒリして痛かったけれど、そんな事忘れてしまうぐらいに、初黒星がショックでした。



☆★☆


試合後。


私は西条先輩と軽く握手を交わしました。


「ナイスゲーム!」


「ナイスゲーム……でした」


声が小さく震えていたような気がします。


私としては、はやくコートから出たい気持ちで一杯でした。


でも、西条先輩は、試合中には決して見せなかった満面の笑みを浮かべて、私の手を離さずに、


「今日はホントーに楽しかったわ。私こんなに無理したの久々。貴方のおかげよ。ありがとう」


「……そぅ、ですか。私も……楽しかった、です」


何が、ありがとうだ。


最後、アンダー打ったくせに。


心の中で毒を吐いていましたが、それを知らない先輩は、


「どう? 良かったらこの後一緒にクールダウンしない?」


私の足をチラッと見ながら言ってきましたが、


「……いえ。私、この後用事があるので……。ごめんなさい」


「そう…残念」


とても誰かと一緒にいる気分にはなれなかったです。


私は、それだけ言うと、握って離そうとしない西条先輩の手を軽く振り払って、コートを後にしました。





☆★☆


近くの公園。


みんな、テニスコートの方に集まっていたから、その時はラッキーな事に、誰も人は居なかったです。


人気のないとこに行きたいと思っていた私は、引き寄せられるようにそこのベンチに腰を掛けました。


そして、しばらくは、遠くで聞こえる試合の歓声を耳にしながら、何も考えずに空を見上げていました。


朝起きた時はあんなに綺麗に見えた碧空。


今はフィルターでもかかってるのかって、ツッコミを入れたくなるぐらいに、全く別の物に見えました。


そんな空を眺めていると、


(私、本当に負けたんだなぁ……)


ようやく負けた実感がしてきました。


そう思うと、鼻の奥の方からツーンとし出して、


「ヒック」


最初は小さく、しかし「誰も居ない」、という状況がトリガーとなって、私は大きく肩を震わせて、中学生になったのに、ワンワンと大泣きしてしまいました。



☆★☆


どれくらい泣いていたかは覚えてないです。


5分もなかったかもしれませんし、10分ぐらいずっと泣きっぱなしだったかもしれません。


どれだけ泣いても、負けたのが悔しくて悔しくて、涙が止まらなかったです。





でも、その時でした。


「えっと……君、大丈夫か?」


頭上で男の子の声がしました。







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