第15話私が先輩を好きになった理由①(皇視点)
——とても良い天気の日だったのを覚えています。
空はどこまでも蒼くて、雲も一つもなくて。
部屋の窓を開ければ、そこから、スゥーと、心地よい風が吹いていて、本当に今日は絶好のテニス日和だな〜ってワクワクしていました。
もちろん、私のコンディショニングも絶好調!
身体もウズウズして、試合は10時から開始だっていうのに、朝5時にはもう目が覚めてました。
「早く時間過ぎて〜」って腕時計に何度も何度も念じていたっけ。
そのぐらい私はその日を楽しみにしていました。
☆★☆
――県大会女子シングルス4回戦。
勝てば、ベスト4に進出する大事な試合。
だけどですね……その試合。
実質勝てば優勝みたいな試合だったんですよ。
なにせ相手は去年全国大会で準優勝したみどり先輩。
メディアにも注目を浴びる程の先輩。
県大会ぐらいじゃ、優勝候補筆頭ですよ。
だからなんですかね……。
2・3回戦で先輩と当たった選手は、試合前から戦意喪失していました。
半ば「記念試合」みたいな感覚で臨んでいるので、そりゃとーぜんのように「瞬殺」されてましたよ。
3回戦で当たった人なんて、途中で棄権なんかしてましたしね。
え? 私ですか?
……私は違いましたよ。
大好きなテニス。
――300グラムに満たない黄色い球をラケットで打ち返す。
たったそれだけの単純な事だけど、テニスは奥が深くて、面白くて……ずっとずっと夢中になれるスポーツ。
テニスをすれば、時間なんかあっという間で、気がつけば私は県では名が知られるぐらいには、テニスが上手くなりました。
私にはスタミナがめちゃくちゃあります。
だから、スタミナを武器にして、ひとたび試合が始まったら、どんなに泥臭くても、どんなに追い詰められていても、絶対に諦めずにボールに食らいついて、粘り強く、ボールを相手コートに打ち返して……。
結果的になんですけど、先輩と試合するまで私、無敗だったんですよ。
無敗って凄くないですか!?
負けた事無かったんです。
だから、
(今日も私のテニスをして勝つ! 私なら勝てるっ!)
たとえ、それが全国クラスの相手でも、私は負けるなんて、これっぽっちも考えていなかったんです。
みどり先輩を倒せるのは私しかいないって、そう思い込んでいました。
でも、試合前までずっと一つだけ引っかかる事があったんです。
それは、3回戦で棄権した人が、試合後にこんな事を話していて。
——もう西条さんとは二度とテニスなんかやりたくない。
私はその時、一回ぐらい試合に負けたからってそんな言葉吐くなんてどうなの? って、思っていました。
でも、違ったんです。
試合が始まって、すぐに私はその選手の気持ちが分かりました。
先輩は私が想像していたよりもはるかにテニスが上手かったです。
少なくとも、あの試合から数年経った今でも、時々夢に出るぐらいのトラウマを私に植え付けるには十分なほど。
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