第16話私が先輩を好きになった理由②(皇視点)


「ザベストオブ3セットマッチ。西条サービストュープレイ」


試合開始。


審判の掛け声を合図にして、西条先輩がボールを宙にあげて。


そしてラケットを振りかぶって――。


(――速ッ!)


西条先輩がサーブ&ボレーのプレイヤーであることは知っていました。


だけど、まさかここまでとは……。


ネットの上を掠めるか掠めないか、ギリギリの強烈なサーブ。


勿論、私も何度か西条先輩の試合でサーブは見たことはありましたけど……いざコートの上に立って見ると、球筋が既に明らかに他の選手とは違いました。


ボールをラケットに当てるのが精一杯。


フラフラ……とボールは緩く高くあがりました。


イージーボール。


既に回り込んでいた西条先輩に難なくそのままスマッシュを難なく叩きつけられ、


「15-0」


流れるようにあっという間に1ポイントをとられました。


(……やば)


リターンエースどころか、サーブを打ち返すビジョンが浮かばない。


こんなのは初めてでした。


反射的に、西条先輩を見ましたが、先輩は何食わぬ顔で、もう次のポイントを狙いに、ボールをトスして――。


(ま、待って)


慌てて、構えの体制に入りましたが、今度も当てただけ。


ボールはあさっての方向に飛んでいき、アウト。


「30-0」


(このままじゃ私何も……出来ない……。何とかしないと……)


とりあえずベースラインよりもっと後ろに下がって、何とか返そうと試みましたが。


「ゲームアンドファーストセット。西条。1-0」


結局、最初のゲームはそのまま1ポイントも取れませんでした。



☆★☆


2ゲーム目。


今度は私がサーブする番。

ブレイクする算段が全くない以上、その間に絶対にサービスゲームを落とすわけにはいかない。


そうなると作戦は一つ。


それは、私の得意分野の「スタミナ勝負」に出る事。


エースなんか狙わない。


「勝つ」テニスより「負けない」テニス。


ひたすらシコって、相手のミスを誘う――私のテニスの根幹。


こうなった以上序盤からラリー戦に持ち込んで、西条先輩の体力を削ることを狙いにいきました。


☆★☆


「はっ……はっ……」


いける。


右、左、右、左……。


左右交互に深く浅く、コースをしっかり打ち分けて、西条先輩をベースラインに釘づけにして前に出てこれないように出来ている。


今だって、ネット前に出てこようとしてたけど、私が打ったフォアハンドのクロスをうまく打ち返せずに、ネットに引っかかった。


「40-30」


「よし!」


このゲームは私のものだ。


流れは私に来ている。


後1ポイント。


まずは1ゲームだ。


(決める!)


ボールを高くトスして、ワイドに逃げていくスライスサーブを打ち込んだ。



——その瞬間でした。


見なきゃ良かったのに、私は見てしまいました。


西条先輩の口が小さく動いたのを。


そしてなんと言ってるか直感で分かってしまいました。


「……スタミナ勝負ね。いいわ」






























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