第14話対等な関係


声がした方を見ると、両手に弁当箱を2つ持った皇が、むすっと俺を睨んでいた。


「皇?」


俺がそう口にするや否や、皇は俺に片方の弁当箱を俺の胸に押し付けてきて、


「ちょっと来てください」


そう言うと、クルリと俺から背を向けて、足取り速く歩き出した。


「え? あ? ちょ、俺並んでいるんだけど?」


「いいから! 早く来てください!」


列を抜ける事は躊躇われたが、流れで押しつけられた弁当を返さなくちゃならない。


めちゃくちゃ気が引けたが、俺は列を抜け出し、皇の後を仕方なく追った。




☆★☆


——人気のない踊り場。


周りに誰も居なくなった所で、皇はピタっと止まり、俺の方に向き直った。


「……私、朝言いましたよね。先輩の弁当は私が作って来たって」


「ちゃんといらない、って言ったんだが」


そう切り返すと、皇は眉をピクピクッとさせて、


「そうだったんですか? 私、てっきり先輩が私とお昼を一緒にするのが恥ずかしくて、あんな事言ったんだと思ったんですけど、違うんですか?」


「……」


なんつー、自己解釈だよ。


知り合ってまだ1日も経っていない女子の弁当なんて、受け取れる訳ないだろ。


受け取るって事は付き合うって事と同義、ってことぐらい恋愛経験0の俺にだって分かるわ。



——俺が何と答えたらいい迷って返答に詰まっていると、皇はまだ俺が持っていた弁当箱を指差して、


「というか、この私が先輩の為に弁当作って来たんですよ? 普通こんな健気に頑張った後輩の弁当を食べたくないって言いますぅ?」


「ああ」


悲しそうな顔をするな。

演技だってバレバレだぜ。


即答すると、皇はうーん、と腕を組んで何か考え込んだ様子だったが、


「 ……もしかして先輩、焦らすのが好きなんですか?」


「は? ナニイッテンダオマエ」


「だってそうじゃないとおかしいですよっ! こんなに私がアプローチしているのにっ! ムキィーッ!」


ついに自分の感情をコントロールできなくなったか。


地団駄を踏む皇。


(さて……この隙に弁当返すか。さっさと売店に戻らねーと、西条に怒られる)


俺が弁当箱をそっと床に置いて、そぉーと後ろずさりに後退して逃げる準備を始めていると、


「……そんなに私よりみどり先輩の方がいいんですか?」


「——ッ」


急に真剣な顔になった皇。


言いにくそうに、


「盗み聞きする気はなかったんですけど……。あのですね、先輩。怒らないで聞いてほしいんですけど。……先輩、みどり先輩にパシられてません?」


「はぐっ? ……ぱ、パシリ? な、なわけないだろ? これは俺の意思でやっているんだ。パシリだなんて……」


否定はしたものの、心のどこかで何かが痛む。


そんな俺を見透かしたような目で皇は見つめて、


「……完全に手懐けられてますよね。断言できます。そんなんでよく告白なんかしましたね? 絶対にこれからも成功しませんよ? 恋人関係になるって事は、お互いがお互いを対等な関係になるって事なんですから」


「……」


対等な関係が恋人関係?


それがそうなら、俺は西条となれるだろうか?


昔からずっと一緒にいた西条。


思い返せば、高校に入るまでは対等だったと胸を張っていえる。


だが、高校に入学した頃——そう西条がテニスを辞めた辺りぐらいから、西条は俺に対する態度が変わったような気がする。


何というか……何処か避けられているような。


それでも俺は西条と昔のような関係になりたくて、告白して……それもダメで、今またチャンスを伺っているけど……。


——付いてこないで

——はい、コレ。


俺は、もう西条の隣にいる事ができないのか……?


なんかそう考えると、スゲー悲しいな。






心にスーっと冷風が吹き込だその時だった。


「私となら対等になれますよ?」


皇がこれ以上ないほどの満面の笑みを俺に見せてきた。


——その瞬間、俺の心はグラリと揺らいだ。


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