第13話大泣きしたあの子

――売店前。


俺と西城が来た頃には、廊下にはみ出る程の長蛇の列が出来ていた。


「め、めっちゃ、混んでるな」


「いつもこんなものよ」


毎日弁当で済ませている俺には、こんなに売店が繁盛している何て知らなかったが、西条は馴れたように答えた。


「……これで並んで、売り切れとかになったら、最悪じゃね?」


列の前の方が見えないぐらいだし、十分ありえそう……。


だが、それについては――


「そんな事滅多にないわ。列にさえ並べば、ちゃんと買うことが出来るから」


「へぇ~。なら、安心だな」


言われてみれば、学校だってちゃんと需要は把握しているはずだし、納得。


俺が一人、合点がいっていると、西条は手に握り締めていたブランド物の財布から、カードを取り出して、


「――分かったなら、はいコレ」


「へ?」


「わざわざ二人も並んで待つ必要ないでしょ? 私、教室戻って勉強するから。ミツキは並んで私の分も買っておいて。おにぎり2つ……種類はなんでもいいわ。お願いね」


俺はカードを受け取って、


「……まぁ、いいけどよ……。そんなに少なくて大丈夫か?」


昔からこういう事はよくあったから別にそれでも俺は良いが、昼飯におにぎり2個って大丈夫か?


心配して聞くと、


「今、ダイエット中なのよ。あまり、そういう事突っ込まないでくれる?」


「ダイ……エット?」


デリケートな事情だった。


だが、改めて西条を見ても――。


モデル顔負けのくびれのある身体に、程よく付いた筋肉。

校内中の女子がなりたい! って思われている程の体型なのに、まだ痩せたいのか。


「……俺的には今でも西条、スタイル抜群だと思うけどな」


ボソッと本音をいったつもりだが、西条は


「……ば、ばっかじゃないの? そんなんでおだてたつもりなのかもしれないけれど、な、何も出ないんだからっ! やっぱり、今日のミツキ変ッ! 私、もう行くッ!」


そう早口で言うと、今度は来た時よりも速く、ぴゅーっと走って行ってしまった。


「お、おい……。本当の事なんだけどな……」


告白した時もそうだったけれど、思いを伝えても西条には中々伝わらない。


(西条、やっぱり俺の事嫌いになったんかな……。まぁ、好きでもない奴から告白されたら誰でもそうなるか。西条は勉強もできるしピアノだって全国レベルだし、引退したとは言え、テニスだって全国上位レベルだったもんなぁ……。高嶺の花だし俺には手の届かない所に行っちゃったのかな、やっぱり)


西条は高校にあがるまで、テニスをしていた。

全国でも有数の実力と容姿、優秀な学業も相まって、雑誌とかで何回か特集を組まれていたのを覚えている。


俺はテニスはあまり詳しくはないが、何度か試合を見に行ったことはある。


その時、印象的だったのは、中学2年のとある試合。


(……確か、試合後に1ゲームも西条からとれなくて、ベンチで大泣きした子が居たよな)


あまりに泣きじゃくってたから、見ていて可愛そうで、慰めにいったぐらいだった。


後から聞いた話だけど、その子は西条に負けるまで、負けたことがない強豪選手だったらしい。


そりゃ、ショックも受けるわな。



(あー、あの子今どうしてるかなぁ)


列で並んでいる間、俺がその時の事を回想していると、



「センパ〜イ。中々来ないって思ったら、結局私を無視して、売店でお昼済ませる気だったなんてひどすぎですよ〜」



背後から皇のおどけた声が聞こえた。
































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