第18話 草食系男子の、用心棒。
「て、てんめえ、何でこんなところに!」
アタシはラッシの姿を見た瞬間、貴重品ストレージに手を突っ込んだ。
当然豪雷砲を握りしめる。
「おやっさん、何でコイツラがここに!」
「何でゲンク爺さんを『おやっさん』とか言ってんだ! よくもアタシらの前に出て来れたなテメー!」
「そっちこそ人の身ぐるみ剥いどいてよく言えんな! 俺が大事にしてた価値4のあの剣、どうしたんだ!」
「売ったに決まってんだろうが! 後生大事にしとくようなモンじゃねーわ」
「それに俺の大事な『刀剣女子』、どこやりやがった! おやっさんに渡してねえってことは、そっちのナヨチンが持ってんのか? 返しやがれ!」
「バッカ野郎、あんな下らねーエロ本は燃やしちまったわ! あんなクソ剣美化したエロ本で抜くヤローは許しちゃおけねえ!」
「な、何だとっ! テメーみてえなガサツな女は健気で芯がある鍛冶娘レヴィとは似ても似つかねーなっ! ありゃ異世界渡りの絵師が書いた貴重な一冊だったんだぞっ」
何かラッシの野郎の声が悲壮感を帯びて涙声だ。
「あの絵師の絵って、こっちの『女騎士道』書いた人と同じでしょう?」
「ああ、そうだっ!
「『女騎士道』にも鍛冶娘レヴィは出て来てますよ、傷ついた主人公の聖剣ダイトーレンを修復する鍛冶として」
「ほ、本当かッ!」
「嘘じゃないですよ。カフの町までの往復、僕たちの護衛としてしっかり勤めてオエーツまで戻って来れたら、この『女騎士道』、謝礼としてお渡ししてもいいですけど」
「ナヨチン、てめーには借りがあるが、ソイツを素直に渡したら、水に流してやってもいいぜ……」
「何言ってんですか、僕は散々あなたたちに殴られまくったんですよ? あなたには思いっ切り斬られましたし。
それを水に流した上で、仕事しっかりやれば正規の依頼金の他にコレもお渡ししても良いって言ってるんですから、そんな脅し受ける筋合いじゃないですよ」
おお?
いや、確かにステータスには弁舌3付いてたけどよ。
アタシはちょっと呆気に取られて毒気を抜かれた。
「ちょっと、ゲンク爺さんの弟子のアンタ、何脅してんのよ、こんな儚い子を。
アンタみたいな粗野な男が脅したら可哀想じゃないの!
ゲンク爺さん、弟子の躾けちゃんとやっときなさいよ!
それに自分が用心棒務めるのが嫌だからって呼んでるんだから、その辺りちゃんと因果も含めなさいよね!」
キリーママがまた
くっそ、
キリーママに叱責されたラッシは、事情が良く分かっていなかったのか、ゲンク爺さんに向かって尋ねる。
「おやっさん、どうゆうことなんだ? 護衛だの何だのって」
「あー……実はの、ワシャこのキリーママにはツケ溜めとっての。そんで用心棒の金でツケ払えって言われてのう……じゃが、オヌシも見とったじゃろ? ワシにツキのビッグウェーブが来とったのを! じゃからそれで払うって言ったんじゃが、信用して貰えなくてのう……」
「そりゃそうだろうよ! おやっさん、賭けるとこ引くとこ逆なんだからよ!」
「ええんじゃ! ワシャこれまでそれで生きて来たんじゃから! それで海で困ったことは一度もないわい!」
「こうして普段は困ってんじゃねえか! ホントにすげー人なのか疑わしくなって来るぜ」
「別に構わんぞ? ワシャ漁師で十分じゃからの、ほっほっほっ」
「……いや、別にすげー人だから弟子んなったワケじゃねえしよ……
わかったわかった、おやっさんの代わりに用心棒してくりゃいいんだろ」
「おっ、物分かりええのう。じゃ頼むぞい。オヌシのコマは5倍にしといてやるからの、ほっほっほっ」
そう言うとゲンク爺さんは年とは思えぬ速さで地下の賭場に消えた。
「くっそ、ぜってーあの人全部スるな。せっかく調子良かったってのによお……」
ラッシの奴が頭を掻きながら小声で呟く。
しかし、何でコイツがゲンク爺さんと一緒にいるんだ?
「ゲンク爺さんが自分の代わりに指名するくらいだから、腕は立つってことでいいわね。
じゃあレディア、用心棒代、500ゴールドね」
「何か釈然としねえな。何でオマエがゲンク爺さんと一緒にいるんだよ」
アタシはキリーママに500ゴールドを渋々支払い、ラッシの奴にそう聞いた。
「……俺はあの人に負けたんだよ」
「アタシらにも負けてんじゃねーか」
「……オマエ、本当にガサツで容赦ねーな。悪かったよ、その節はよ」
「何悪かったで済まそうとしてんだよ。アタシはアンタらに
オマエと道中一緒に過ごすだなんて身内に毒蛇飼ってるようなもんだ! いつ襲われるかわかったもんじゃねえ。
ゲンク爺さんにゃ義理があるから金払ってやったがよ、オマエは一緒に来んな!」
「だったら俺が替わりに行きましょうか?」
いつの間にやらアタシらに近寄ってきてそう声を掛けたのは、アタシがこの店に入った時に赤ら顔で素早く振り向いた、城勤めらしい優男だ。
「なに突然口挟んでんだよ、大体オマエ全っ然強そうにゃ見えやしねえぞ」
ラッシがそう言ってその優男に食って掛かろうとする。
「見た目で判断するようじゃ、まだまだだね。だいたい君はそのドワーフのお嬢さん達に負けたんだろう? 見た目は君の方が強そうなのにね」
「てめえ、何知った風な口聞いてんだよ……やっちまうぞコラァ!」
「……ふうん、なかなか筋は良いみたいだね……ただ、低い方に流れて生きて来たせいで卑しさがまだこびりついてるのか。
師匠の元でもうちょっと色々と学ぶ必要はありそうだね」
優男はラッシの目を見据えて、そんなことを言った。
「ちょっと、……タイガーったら、アンタ口挟むんじゃないわ。
きっとエリオットが探してる真っ最中よ? 用心棒になってエリオットから逃げようって思ってるんでしょうけど、駄目よ?
もうサケは十分堪能したでしょう、仕事戻んなさい。
エリオットの雷が落ちるわよ」
「ちぇっ、キリーママ、融通利かないな。
わかったよ、今日は戻る。
じゃ、鍛冶屋のレディアさんと居候の一ノ瀬優斗くん、またそのうち会おうね」
優男はそう言うと、酒場を急ぎ足で出て行った。
「テメェ、待ちやがれ!」
ラッシは優男を追いかけようとするが、途中で見えない壁にぶつかったように弾かれる。
「ちきしょう! 何じゃこりゃ!」
「アンタ、もう用心棒の代金は貰ったから、アンタはもう用心棒としての仕事するようになってんの! それ以外で暴力沙汰は出来ないわよ。
雇い主襲うなんてこともできないわ。
アタシら酒場の
『用心棒派遣業』って言うのよ。
契約は絶対。60日間アンタは雇い主が誰かに襲われたら何してようとその場に行って雇い主守るようになってんのよ」
「じゃあ、ラッシさんは僕らと一緒に来なくてもいいってことですか?」
「流石にオエーツとカフの間を一瞬で移動するなんてのは無理よ。護衛対象からちょっと離れたところからなら一瞬で現れるけどね。
だからユウトくんたちから付かず離れず、姿は見せないようについて行くってカンジかしらね。
戦闘になったら何も言わなくても現れるし、呼んでも来るようになってるわよ」
「レディアさん、そういうことらしいですから、いいんじゃないですか? 常に一緒に居ないといけないって訳じゃないみたいですし」
「……わかったよ」
アタシは渋々そう言った。
転移してきた異世界軟弱野郎を、一端にして送り返すなんて面倒を何でアタシがしなきゃならんのか。成り行き? ああそうだよちきしょー。 桁くとん @ketakutonn
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