線路は続くよ
雨瀬くらげ
線路は続くよ
「あんた早く片付けなさいよ」
母はそう言うが、いざ整理を始めると見つかるもの全てが懐かしくて進みやしない。
僕は今週末、この家を出る。
長年過ごしたこの家ともお別れだ。だから荷物の整理をしなくてはならないというわけだ。整理なんてせずに全てを持って行きたい気持ちで山々なのだが、現実そうは行かない。逆にあまり多くの荷物を家に置いておくこともできない。つまり、捨てる物も選ばなくてはならない。
おもちゃ箱を開いて出てくるものはどれも思い入れのあるものばかり。捨てるのはかなり気が引ける。
「うわ、めちゃくちゃ懐かしい」
箱の底にあったのは昔よく遊んでいたプラレールのN700系だった。スイッチを押すが電源は入らない。それに他のおもちゃにぶつかり、所々傷が入ってるものの比較的綺麗だ。余計に捨てるのがもったいない。
「だからと言ってもう遊ばないし」
と、ゴミ箱にN700系を入れようとする所を弟に見られた。
「兄ちゃん、それいらないの?」
トミカのパトカーを持ったまま立つ弟はまだ五歳。この春から幼稚園に通う。
「いらないかな。勿体ないけどもう遊ばないから」
「じゃあ僕にちょうだい」
彼はその小さな手を僕に差し出す。
「でも、電車好きじゃなかったじゃん」
「電車好きじゃないけど、欲しい」
そう言い張る彼の足元を見ると、たくさんのトミカのおもちゃで出来た街があった。その街の間を縫って、紙にクレヨンで書かれた線路が通っている。
「レールもいる?」
「レール青いから嫌だ」
「そこ忠実なんだね」
僕は笑いながら、N700系を彼に手渡す。N700系はすぐに街の線路に置かれ、彼の手によって新たなレールの上を動き始めた。
運転手交代。
N700系はまだまだ現役。
レールが続く限り。
線路は続くよ 雨瀬くらげ @SnowrainWorld
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます