バッドエンドB どうしてそうならねばならなかったのか。

 その後避難所を転々としたが、会津のほうで震災前の小学校が再開した。

 もとの環境とは程遠いが、もとのメンバーと学校生活が送れて、大輔くんや玲菜ちゃんたちと無事に再会できる、というのは、今まで良い出来事が無かったため、とてもうれしかった。

 しかし、そこに千尋ちゃんはいなかった。


 千尋ちゃんは一家で関東のほうに避難したらしい。

 ひとまず、安心した。津波で流されたわけでもなく、生きている。

 避難先にはいつまでいるのかな?

 いつか戻ってきてくれるかな?

 はやく戻ってきて、もう一度会いたいな。

 そう思っていた。














 でも、二度と帰ってこなかった。










 千尋ちゃんは、自殺したそうだ。

 避難先の学校で、酷いいじめに遭ったらしい。

「放射能がうつる」

「原発のとこに帰れ」

「汚れるから近づくな」

 根拠のないデマから差別され、ナイフのような言葉が次々に投げつけられたそうだ。

 そして、家族との関係もギクシャクしてしまっていたらしい。


 千尋ちゃんは強がりだけど、人一倍繊細なのは知っていた。

 悩み事はひとりで抱えこんでしまうことも知っていた。

 耐えられなくなったとは容易に想像がついてしまう。

 どうして?

 僕はどうして助けられなかったのだろう。

 どうして千尋ちゃんがいじめられなければなかったのだろう。


 死ぬ前に、こっちへ戻ればよかったのに

 死ぬ前に、僕に一言「助けて」と言ってくれればよかったのに。


 いじめをした連中が憎い。

 いじめの原因である放射能が憎い。

 放射能をばらまいた電力会社が憎い。

 避難でバラバラにさせた人たちが憎い。


 そのくせ、彼らは平気な顔をしている。

 お前らの電力供給のために、被災して、避難させられて、そのくせいじめる。

 何も知らない、知ろうともせず逃げて、いじめる連中、そして、責任逃れをしまくっている連中。こういった人たちが憎くて、憎くて。仕方がない。

 一生をかけて、恨んでやる…



 東日本大震災の震災関連死は3,700人以上に及ぶ。

 うち、福島県は2,300人を超えている。

 千尋ちゃんがそれに認定されたかどうかは知らないけれど、千尋ちゃんは自殺ではなく、殺されたと同じだと思う。


 千尋ちゃんのために、そして、彼女をいじめ、死へと追い込んだ連中を地獄に落とすために、生きていこうじゃないか。


 11年経ち、憎しみは少し薄まると思ったけれど、連中への恨みは晴らせていない。むしろ風化して、彼らは真実を知ることから逃げて、風評しての繰り返し。

 悪魔に魂を売ってでも、自分がさらに不幸になってでも、復讐できるのならそれで良い。


 闇落ちしたな、と大輔くんに言われたけれど、誰の目も気にしたくない。

 奴らを土下座させ、やられた分だけ、いや、その倍、踏みにじってやりたい。

 そのために、この頭を使って、どんなことでもやってやる。

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