2011年2月14日-15日

 家について、すぐに自分の部屋に入った。普段は居間にいるが、今日はしない。お土産を貰うことは何度かあったが、あからさまにラッピングされたものを貰って帰ってくるは初めてだから、おばあちゃんたちに見られるのは恥ずかしいからだ。

 破かないよう慎重にラッピングを開くと、そこにはチョコクッキーと綺麗に折りたたんだ紙が入っていた。クッキーよりもそっちのほうが気になる。

 その紙を開いてみた


「遥人くんへ

 これは本命チョコ ずっと前から遥人くんのことが好きでした。

 答えはホワイトデーで教えてね

 ハッピーバレンタイン 千尋より」


 開いた口がふさがらない。

 どういうこと??

 僕のことが好きってどういうこと??

 ただの幼馴染、ただの友達。そう思っていたけれども、こうして「好き」とストレートに言われると話が違う。

 手紙を何度も読み返した。

 しかし、僕の答えはすぐにでた。

 理由は無い。小5の自分は恋愛のいろはを全然知らないが、千尋ちゃんともっと一緒にいたい。ただそれだけ。そもそも断る理由が見つからないし、本当は彼女が好きなのかもしれない。そこは分からない。分からないけれど、ただずっと一緒にいたいというのは揺るぎない事実だと思う。


 そんなことをずっと考えているから、今日は全然眠れない。




 翌日の帰り道

 千尋ちゃんは玲菜ちゃんとずっと話していた。いつもは男女問わず話しているのに、今日は僕らに一切話題を振らない。玲菜ちゃんと2人でずっと話している。

 さすがにおかしいと感じたのか、大輔くんが耳打ちしてきた。

「なぁ遥人、千尋ちゃん何かあったん?」

 さすがにチョコ貰ったとは言いづらかったから、「何も知らない」と嘘を吐いた。早く2人だけになりたかった。

 でも、いざ千尋ちゃんと2人きりになると、互いに意識してしまっているせいか、どちらからも言葉が出ない。無言が続くことなんて、今まであっただろうか。意識しすぎて顔を見ることすら恥ずかしく、前を向いたまま話しかけた。

「昨日のチョコ、めっちゃ美味しかったよ、ありがと」

 ちらりと横をみて表情をうかがうと、少し頬が赤らんでいるようだった。

「でさ、あの手紙のことなんだけど…」

 そう言おうとすると

「ストーーーップ!!!そこから先は言わないで!私だって心の準備ができてないから、その話は来月に! ね!」

 千尋ちゃんはものすごい速さで僕の言葉を遮ってしまった。怒る姿がこんなに可愛かったっけ?と思ってしまい、こっちまで恥ずかしくなった。



 もう一度冷静になって考える。気持ちは変わらない。むしろその気持ちが強くなっているのを感じる。

 答えは手紙ではなく言葉で直接言おうと心に決め、お返しの品は無難にクッキーにすることにした。週末を迎える度に作る練習をしながら、ホワイトデーの3月14日が近づくにつれて、ドキドキが増していった。告白するまで、あとちょっと…





 のはずだった。

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