ナポレオン=ボナパルトと言えば、誰しも歴史の教科書や、マンガ偉人伝などで、その生涯に触れたことがあるかと思います。
革命後の内憂外患に覆われるフランスを、カリスマ的な指導力と軍事力で統帥した英雄……そんな偶像の虚実を、ナポレオン本人ではなく、彼に関わる多くの人物を通して浮き彫りにする本作は、著者一流の群像劇です。
ナポレオンと敵対する王党派の亡命貴族フェリポーは、シリアの城塞都市アッコの攻防戦で戦死し、ナポレオン麾下にあるドゼ将軍の奴隷、バキル少年の身体に転移します。
文字通り視点を変えたことで見えてくる、登場人物たちの多彩な内面、歴史の只中で交錯する人間ドラマ、何よりハーレムの少女一人一人に至るまで実在した人物である確固とした存在感に、圧倒されます。
すっきりした読みやすい文章と、的確な背景描写で描かれる、西欧の栄枯盛衰の一時代……皆さまもぜひ、堪能されてはいかがでしょうか。