第174話 後ろからガブ
レニウスの襲来まで残り十数時間。
往って来いでフィモーシスヘと帰還したイケダ・セリーヌペアは、市長、副市長と相対していた。
ジャージエプロン娘が全員にお茶を配り終え席に着く。ちなみに今日はブルーを基調としたジャージだった。
「えー、まとめますね。幾何後にレニウス帝国軍10万がフィモーシスを襲撃します。ミラローマが奴隷の子供たちを人質に取ってます。我々は戦うしかないです。はい」
「話をまとめたとは思えないほどのイミフ展開なんだけど」
セリーヌに頷く。もう何が何だかだ。帝国絡みのイベントは突発的かつ大規模なものが多い。転移魔法によって身体はついて来ているが、頭の回転が全く追いつかない。
「カカカカカ。ロスゴールドの小僧にまんまとやられたの」
「あ、フランさん。いたのですね」
「いた」
「はい」
「いたぞよ」
「ええ」
「あ?」
「え」
何故かメンチを切られた。再会早々滾られている。
周囲の面々もフランチェスカの方へ視線を向けていた。しかし焦点が合っていない。声は聞こえるが姿は見えない状態だろうか。
「つか率直な疑問なんだけど。とりま奴隷共を囲んでる奴ら、全員殺しちまえば、レニウスと戦う必要ないだろ。あとついでにミラローマもヤっちまってさ」
「私達だけだと判断が下せなかった。だからこのヒトに頼んで、イケダを呼び出してもらった。イケダもセリーヌと同じ意見?」
セレスに問いかけられる。小首をかしげる姿は可愛さ抜群だった。ビューだよ。
「んー、まぁ、子供たちを救えるか救えないかで言ったら、全員無傷で助けられるとは思います。ただ焦点はそこじゃないんですよね」
「どういうことかな」
「子供たちを助けてフィモーシスから逃げたとします。そうすると帝国軍はこの地をスルーして、首都マリスへ向かい、そこでダリヤ軍と衝突することになると思います。少なくない犠牲が生まれるでしょう」
「だろうね。でもイケダさんの責任じゃない」
「ええ、そう、それはそうなのですが、私が動くことで最小限の被害に抑えられるかもしれません」
「ロスゴールド大臣にハメられてなお、奴の思惑通りに行動すると言うのか」
「物理的に不可能だった事柄に対して、後悔を覚えることは少ないです。一方で出来たけどやらなかった事柄は、人生の中で何度も反芻する悔いになりかねません」
「んなこと言ってさ、ボボンとレニウスの戦いには最小限の介入だけで済ませたじゃん」
「ボボンとダリヤは違います。ダリヤは私に安心と安全を与えてくれました。言わば第二の故郷です。自分の家が危機に晒されて、何もしないことがあるでしょうか」
「英雄気取ってんじゃねーぞ、雑魚が」
「雑魚て」
突然の恫喝にビクつきながらセリーヌへジト目を向ける。戦争真っ最中に愛する姉さまを救った相手へよくそんな言葉が言えるな。
「じゃあイケダはレニウス軍を止めるってことね」
「まぁ、極力」
「分かった。私も協力する。策は幾つか考えてる」
「え、マジすか」
驚きまなこでセレスを見つめる。彼女は数秒視線をテーブルに落としたのち、ゆっくりと顔を上げた。
「策は3つ」
「おお。そんなにあるのか」
ジークフリードも驚きを隠せない様子だ。まさかセレスに戦術の才能もあったとは思わなんだ。
「1つ目は、無差別殺戮作戦」
「え」
「私の闇魔法と、池田の氷魔法で敵軍10万を飲み込む。それで終わり。たぶん相手は死ぬ。万が一死んでなかったら、後ろからガブ」
「あの、えーと」
1つ目にして策とも呼べない野蛮戦法を推奨してきた。意味が分からな過ぎて苦笑いしか浮かべられない。
「2つ目は籠城による兵糧枯渇作戦。レニウス軍はダリヤ南部の撤退により各市町村から満足に補給出来ていないはず。更には10万という大軍。維持するだけでも大変。そこにフランチェスカ製の市壁。たぶんだけど敵の総攻撃に耐えうると思う。あとは待つだけ。兵糧が無くなって撤退を始めたら、空腹で集中力が切れた軍に、ガブっといく。それで終わり」
「なるほど」
1つ目よりはマシだと思えた。ただ結果が出るまでの期間が不明瞭だ。出来得るならば短期間で勝負を決めたい。
「3つ目。将軍暗殺作戦。イケダが敵の大将、ブリュンヒルデの近くに転移して、後ろからガブ。終わり」
「あ、それいいんじゃないかな」
「うむ。我もその策を押す」
「ダーイケ、お前ならお茶の子さいさいやろ?行ってら」
「…………」
この人たちは戦争をなんだと思っているのだろう。
「4つ目。ズバリ、偽降伏作戦。降伏すると見せかけて、交渉の場に立つ。敵の総大将が現れたところで、後ろからガブだから」
「あ、それでもいいんじゃないかな」
「悪くない。イケダさえ頑張ればいい」
「サクッとやってこいや」
「あの、えーと。もうどっちでもいいです」
頑張ります。
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