第161話 DEAR SISTER
セリーヌへ
我らが祖国ボボンは相変わらずの雲色だ。政治闘争に明け暮れ、誰かを蹴落とすことばかり考える輩で溢れている。
特に南部は政治色が濃い。世界最大共通敵のレニウス帝国と隣接しているにも関わらず、戦ではなく政治に強いものばかりが旗頭となっている。
国が変わる必要がある。だが今の王では駄目だ。既得権益に拘泥し、改革や革新と言った言葉が頭からすっぽり抜け落ちている。愚王と呼んで差し支えないだろう。側近も無能ならば手の施しようがない(書き過ぎた。国家反逆に加担したとみなされる恐れがある。この手紙は読んだ後に燃やしてくれ)。
セリーヌ。私はお前が嫌いだった。
職業。異性関係。生き方。全てにおいて自由なお前が憎かった。思いのまま行動できるお前を恨んだ。
だが気づいた。全ては嫉妬であり羨望だった。家柄や役目、種族に言い訳を見出して行動に移さない私にとって、立ち塞がるものをぶち壊し己の道をひたすら進むお前は、ただただ美しく、また格好良くもあった。
お前は、私の理想そのものだ。
私は今、フラワー砦でこの手紙を執筆している。10日後にはココハナ平原にてレニウス軍と接敵する。戦争は避けられない。
父が病に倒れたことで、私がマーガレットの名代となった。指揮官を任された以上、逃げ出すことは許されない。もとより私の性格が許さない。
この戦は負ける。レニウス軍の指揮官は常勝不敗のハイデンベルク将軍だ。一方の王国軍は彼に勝る戦略を描ける者など皆無。必定、敗北は逃れられない。
出来得る限り、マーガレットの兵士は戦場から逃すつもりだ。彼らに罪はない。悪いのは無知蒙昧な指揮官しか揃えられなかった首脳であり、また敗北の責任を取るのも上に立つ者の責務である。
マーガレット家は任せた、王国の隆盛に心血を注いでほしい。そんなことを言うつもりはない。言ったところで聞く耳は持たないだろう。
私がこの手紙でお前に伝えたい事はただ1つ。
今まで以上に自由に生きろ。
マーガレット家が凋落しようと、王国が滅びようと、何も気にすることは無い。誰かを助けられる力を持つ者が、誰かを助けなければならない義務は存在しない。
お前が救いたい者だけ救えばいい。もっとヒトは自分勝手で良いんだ。私に出来なかった生き方を貫いてほしい。
レイについて話しておくことがある。
お前とレイの件は、私がどうこう言える問題ではないし、既に何らかの考えがあるだろう。その部分に対して意見は持たない。
私がお願いしたいのは彼の説得だ。既に王国監査室からはレイの現場復帰の許可が出ている。役職は第一騎士団の騎士団長。あとは本人の意思だけだ。
しかしながらフィモーシスでの役目もあるだろう。故に第一騎士団をかの都市に派遣する手筈を整えている。ロスゴールド大臣の認可も取った。やる事は増えるだろうが、団員を任せられるのはレイしかしない。よろしく頼む。
あとは、そうだな。自分の力ではどうしようもない事態が必ず直面する。そんなときは迷わず彼を頼れ。
ヒトを見る目には自信がある。彼ならば、大抵のことは何とかしてくれるはずだ。
そろそろ出発する。この手紙が届く頃は行軍中か、戦争中か。いずれにせよ二度と顔を合わせることはないだろう。
さようなら。
願わくば来世で。
クラリス・マーガレット
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