第149話 奴隷を抱いて何が悪い
奴隷の女の子を自室へ招く。この部屋に女性が来るのはセリーヌに続いて2人目だ。セレスはまだ来ていない。
石製の椅子に座るよう促す。俺も正面に腰を下ろす。飲み物は無い。我慢してもらう。
「それで、その、どういうことですか」
謎に緊張している自分がいる。一回りも年齢が違うというのに。あまりに直接的な表現だったので動揺が止まらない。
俯き気味の女の子だったが、またもやキリッとした表情に様変わりしたかと思いきや、先程と同じ言葉を発した。
「抱いてください」
「だから、なんで」
「無茶苦茶にしてください」
「いや、あの」
「私をあなたのモノにしてください」
「聞けよ」
話の通じない女だった。初期のセレスを彷彿させる。奴隷は全員優秀という話は間違いだったかもしれない。
引き続き覚悟を決めた目を向けてくる女の子に対し、自分の思いを正直に伝える。
「有難い申し出なんですけどね。色々な意味で難しいというか」
「男性はすべからく年端も行かない女の子が好きだと聞きました。色々ってなんですか」
「まずその前提が間違ってるんだけど。えー、年齢とか関係性とか」
「年齢なら問題ありません。私は既に経験済です」
「あ、そうなの」
現代日本はスマホ等の普及で性の目覚めが早くなったというニュースを目にした。どうやら異世界でも若者のSEX事情は発達しているらしい。当時中学1年生の俺は何も知らなかった。女の子っていい香りするなぁと思っていた程度だ。部活ばかりに勤しんでいた。
「関係性も問題ありません。私は奴隷です。奴隷主のセリーヌ様と同等の権力を持っているイケダ様には、私を抱く権利があります」
「うーん。もし私が、処女じゃなきゃ嫌だと言ったらどうします?」
そんなことはないけども。
「それでも抱かれます」
「だから抱きたくないと」
「関係ありません。行為に及んだら後は同じです」
「きみ結構ドライなのね」
最近の若者のドライ化は顕著だと聞いたことがある。こちらも異世界にまで波及していたか。
ここはひとつ大人として説法してやるかと、気合を入れて話し出す。
「身体を交わう行為は、心を交わす行為でもあります。愛の無い行為は自身の心をすり減らすだけです。だから一瞬の快楽のために動いては駄目だと思います。好きになった人とだけ身体を交わすべきだと。私は考えます」
「それ奴隷に言いますか?好きでもない奴隷主に命令されて行為に及んだ私に」
「…………」
女の子から視線を外して遠い目をする。今日の晩御飯は何だろうか。焼きジャガッツだと嬉しい。
「聞いてます?」
「聞いてません」
「聞いてください」
「き、君がそうでも、ボクは愛のあるSEXがしたい」
「自分本位ですね。年下の女の子が勇気を振り絞ってお願いしたのに。男性側の一方的な理由で拒絶するなんて。最低だと思います」
女の子が止まらない。いつの間にか形勢が逆転している。どうしてお願いされる立場が口撃されているのか。
しかも向こうは奴隷だ。全く立場を弁えていない。本来ならここで「立場を分からせてやる。裸になれ」と命令したいところだが、本題がそれなので言えない。むしろ裸は相手にとって好都合だ。
どうする。無視するか。この場は切り抜けられるかもしれない。しかし付きまとわれる可能性は高い。
だからと言って女の子の要求を呑むのは悪手だ。セレスに露呈したら詰む。恐らく付き合うルートは消え失せる。彼女は殊の外倫理や道徳に厳しい。
ならば第三の選択を取るほかあるまい。俺に抱かれるのは手段であり、本来の目的が別に存在するのは明白だ。つまり直線的に目的を叶えてやれば文句もないだろう。その目的も先程のやり取りから、ある程度の予測はついている。
遠い目状態を解除して、女の子へ視線を合わせる。綺麗な顔立ちだった。将来もっと美人になるだろう。こんな子が奴隷になるなんて世知辛い世の中だ。
「えーさっきこう言ってましたよね。奴隷主のセリーヌ様と同等の権力を持っているイケダ様と」
「ええ。言いました」
「つまり、私を通してセリーヌに何かお願いしたいことがある、という認識で合ってますか?」
女の子が頬を引くつかせた。どうやら当たりらしい。このあたりは年齢相応だ。
「分かりました。ではそうですね、間で何度もやり取りするのは面倒なので、この場にセリーヌを呼びましょう。あと一応シンクさんも。彼女たちに要望を伝えてください。内容にもよりますが、私も口添えするので」
「え、いや、あの」
「よし。では早速呼んできます。ここで待っていてください」
「ちょっと」
「あ、勝手に出て行っちゃ駄目ですよ。私にあなたを抱く権利があるなら、自室に留めておく権利もあるでしょう?」
ぽかん顔を浮かべる女の子をしり目に後ろ手で自室のドアを閉める。
よし。
今のやり取りで五分五分に戻せただろう。
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