第130話 災厄のPerfect Architecture School
「って、あ。思い出した。15億。15億ペニー払ってください」
「なぜ」
「首都マリスを滅茶苦茶にした損害賠償金です。八角城壁とやらの再建費が大半だと思います。何故か私が請求されました。代わりに払ってください」
「断る」
「は?」
「元を正せば誰に責任があるか。貴様だ。貴様がマリスにいれば、無駄に被害を生むことも無かった。貴様が迷いの森で無差別攻撃をしなければ、、妾と出会うことも無かった。全ては貴様が引き起こしたことよ。15億程度の負債はさっさと返すがよい」
「いや、うそー」
「カカカ」
高らかに笑う姿にげんなりする。声高に叫びたい。百パーセントお前の責任だろと。
分かっていた。どうせ断られると思っていた。彼女は俺の苦しむ姿が好きらしい。余程のことがない限り、救いの手を差し伸べることはないだろう。
「先程、手助けが必要なら声をかけろとおしゃいましたよね。対価を支払えば、借金返済を手伝っていただけますか?」
「いいだろう。20億払え。そうしたら15億稼いでやろうぞ」
「ふぁっ〇!」
「おい。今何と言った」
梨の礫だ。"15億程度"では動いてくれないらしい。
プラスに考えるならば。彼女は俺に対する評価が高い。この位のことで頼ってくるなと。
マイナスに考えるならば。彼女の俺に対する評価と俺自身の評価が釣り合っていない。15億なんておいそれと返せない。
どうしよう。かくなるうえはゴブリンスレイブに勤しむほかあるまい。500万匹倒せば15億だ。この世からゴブリンを無くしてやろうか。
「おい。他の4体はどうした。貴様だけか」
「4体?ジーク達ですか」
「名は分からん。オークと騎士とトランスとサキュバスだ」
「隣町へ買い物に行きました。あと大工も探しています」
「大工?なぜ」
「宿屋を建てるそうです」
「それは既知よ。建物を用意するのに何故大工が必要かと聞いたのだ」
首をひねる。このヒトは何を言っているのだろう。人間界の常識に疎いのだろうか。
怪訝な視線を向けていると、彼女はやれやれといった仕草をしながら口を開いた。
「妾はこの建物を1時間で造り終えた。何を用いたか分かるかの」
「いえ。超常魔法ですか」
「否。魔法は魔法だが、初歩の部類よの」
そう言って彼女はにやぁと笑った。
「妾が用いた魔法は土。土属性の魔法よ」
★★★★
フィモーシスの原っぱを女性と2人歩く。
風でたなびく黒髪からフワッと良い香りがした。若干のドギマギを抑えつつ隣をチラ見する。
身長は俺より若干小さい。170センチ前半か。紫のドレス風ワンピースに包まれた身体は、出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。典型的な良い身体だ。
本来の姿は紫肌巨体ボディのはずだ。あれが戦闘形態なら今の姿は非戦闘形態か。いずれにせよ歓迎しないはずがない。黒髪ロングストレート最高。
言うまでもなく美人だ。雰囲気は西洋と東洋の中間あたり。万人が好む顔立ちだ。渋谷を歩けば瞬く間にスマホの輪ができる。
「古来より土属性魔法は建物建築の一端を担っていた。主流と言ってもよい。だがここ最近は衰退の一途を辿っており、人力による建築が主だ。何故か分かるか」
「いえ」
「あまりにニンゲンは増えすぎた。人間族の台頭が原因よの。魔法適性の低い彼奴らは魔法建築をやらなかった。正確には出来なかった。よしんば土属性魔法を使用できたとしても、内包する魔力量に限界があった。建築には多大な魔力を要するからの」
「効率性を考えたら人力の方が早いということですね」
「人間族はな。紅魔族や黒魔族では、今でも魔法建築を採用している部族もおる。ただその母数も以前に比べると減少している。人類の繫栄は交配にあり、交配は源の血を薄める。魔法力の減退は時代の流れと言えるかもしれんの」
フラン様が立ち止まった。俺も止まる。
「大工は不要と言った理由が分かったかの」
「ええ。フランさんが代わりに建築してくれるのですね。ありがとうございます」
「その下らぬ妄言を吐き出す舌を引っこ抜いてやろうか。あ?」
「………」
めっちゃ睨まれた。恐怖を感じると同時に少しゾクゾクした。もしかしたら俺はマゾかもしれない。
「土属性魔法。膨大な魔法力。当て嵌まる人物が1人おろうに」
「え、もしかして」
人差し指で自分を指さしながら、「ボク?」と口パクする。対してフラン様がコクッと頷く。
引き続き「マジで?」と口パクする。対してフラン様が「そうだ」と口にする。
またまた「そんな馬鹿な」と口パクする。対してフラン様が「貴様しかおらん」と言う。
驚き顔で「ありえない」と口パクしようとした瞬間。
「言え!口に出して。この、きさ……………ふぅ。命拾いしたの。もし妾の気が短ければ、今頃消し炭になっていたぞ。カカカ」
そう言いながら右手に生み出した雷弾を宙に放り投げた。バチバチと音を立てながら空に吸い込まれていく。
めっちゃ気短いやんと思いながら口を開く。
「私の土石魔法なら建築出来ると?」
「可能性は十分にある。やってみろ」
ほれ、と何もない地面を指さされる。スパルタが過ぎる。
「申し訳ないですけどお手本を見せて頂けますか」
「手本なら目の前にあるだろう」
目前にあるのはホワイトハウスの支柱だ。まさかあの豪邸を真似ろと言うのか。
「貴様には魔力もあれば時間もある。自由にできる広大な土地まであれば、言うことなしだ。やりたいようにやってみろ。試行錯誤こそが成長への近道ぞよ」
「確かにそうですね。色々試してみます。ありがとうございます」
「うむ。その上で1つ助言してやろう。貴様らニンゲンは理論や型に嵌めすぎるきらいがある。魔法は可能性であり、その真価は豊かな発想力だ。あらゆる道を想像しろ。魔法は、もっと自由だぞよ。カカカカカ」
フラン様の高笑いが響き渡る。昨日までは煩わしさしか感じなかった。味方となった今は親しみさえ覚える。
カカカ。心が鼓舞されるな。
「分かりました。ありがとうございます。カカカカカ」
「真似するな。髪燃やすぞ。あ?」
「………」
土魔法で家作ってみるか。
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