第127話 悲しみのDetention

 翌朝。朝食を食べ終えた後、早速今後の方針について話し合う。


「我は都市再建について何の知識もない。誰か知っている者はいるか」


 ジークが問いかける。しかし無反応。誰も手を挙げる様子はない。


 それ以前に確認したいことがあったので、口を開く。


「あのすみません、流石に素人集団へ都市再建を任せるわけがないと思うのですが。大臣から人材派遣の話は無かったのですか?」


「あった。ただ向こうも急遽なので準備に時間を要するとのこと。遅くとも30日以内には専門家を派遣すると言っていたが、それまで遊び惚けているわけにもいくまい。ゆえにこうして意見を求めているのだ」


「なるほど」


 存外にやる気を見せている。良い兆候だ。死んだ目でボーっとしているよりはずっといい。


「そうですねぇ。私も騎士団畑の男ですので、都市再建の知識は浅いです。ただ何をするにも先立つもの、お金が必要です。毎日一定のお金を手に入れる仕組みを構築するのはどうでしょう」


「ほう。具体的には?」


「この地は昔、交易都市として発展しており、ヒトやモノの出入りが盛んにおこなわれていました。残念ながら度重なる戦で都市の機能は潰えました。しかしながらヒトやモノの交通量は今も変わらないそうです。そこで、まずは宿場としての機能を復活させるのはどうでしょう」


「ほう。つまり宿屋を設けて、フィモーシスを通る者たちに金を落とさせる算段か」


「ええ。間違いなく需要はあると思います」


「うむ。他の3人はどうか」


 セリーヌ、セレス、俺の順に視線を合わせていく。まずはセリーヌが答えた。


「誰に建築させんの?あと金は?」


「建築に関しては、近隣の市町より大工を連れてくるほかあるまい。金はある。政府より準備支度金として受領した。1億ペニーだ。冒険者ギルドより引出できる」


「1億……」


 恐ろしい金額だ。それだけあったら数年、下手をすれば数十年は遊んで暮らせる。


 一方で都市再建の支度金と考えたら少なく感じてしまう。あくまで俺個人の意見だが。相場が分からないので実情は不明だ。


「最低限、水と食料の一定供給も必要。何か考えてる?」


 今度はセレスから質問が出た。


「いいや。どうすればいいと思う?」


「水は、ある程度までなら私の水魔法で何とかなる。いずれは近くの川から引いてくる必要があるけど。食料も肉だけなら狩りで賄える。野菜もとなると自分たちで栽培するのが現実的。幸いにもフィモーシスの土地はまぁまぁ肥沃」


「そうか。ならばトランス、お前を農林水産担当に命ずる」


「いや。命令しないで」


「すまぬ。この通りだ。どうか農林水産業を担当してくれまいか」


 居丈高な態度から一瞬で土下座モードへ移行した。さすがは俺の盟友。プライドの低さはオーク随一と言える。


「まぁ、いいよ」


「ちょい。あーしは?あーしの担当何よ」


「え。そうだな。うーむ。軍事・防衛担当はどうだ。外敵からフィモーシスを守る役目だ」


「ふーん。えっちじゃん」


「破廉恥な要素は1つもないぞ」


 続々と担当が決められていく。おままごとのようなやり取りだが、素人集団なので仕方がない。士気だけは高水準を保っていきたい。


「……………」


 というか軍事・防衛担当て。経済産業大臣から直接フィモーシスの守護を言い渡されたの俺なんだけど。完全に俺の役目な気がするんだけど。


「シンクは副市長だ。他人の補佐は慣れているだろう」


「えぇ、大役だなぁ。勤まるかな」


「あのぉ、私は……?」


 おずおずと手を挙げる。ままごととは言え、仲間はずれは度し難い。名ばかりの担当でも、役目があるだけで人は安心を覚える。


「イケダか。貴様は…………なんでも担当だ」


「え」


「町の何でも屋さんだ。頼んだぞ」


「ええと」


「よし。では早速仕事にとりかかろう。我は近傍の市町へ行って、ギルドでお金を下ろした後、大工を探そうと思う」


「では私もついていきましょう」


「私も行く。生活用品と野菜の種を買いたい」


「じゃああーしも。お風呂入りたいし」


「えーと、自分も――」


「都市を無人にするわけにはいかない。誰かは残る必要がある。なんでも担当、貴様の出番だ」


「………」


 豚がビッグスマイルを浮かべながらサムズアップしてきた。愛のままにわがままに僕は君の親指をへし折りたい衝動に駆られる。


 訳が分からない。何だこの状況は。クラスの六軍にさえハブられたボッチ高校生のような心地だ。学校のストレスを全てお母さんにぶつける最低の内弁慶が誕生する。


「イケダさん。フィモーシスは頼みましたよ」


「何日か分の料理を作り置きしておくね」


「お土産買ってくるわ」


 他3名も快く俺の居残りを受け入れた。こうなっては反論のしようがない。チームを結成したばかりなのに、輪を乱すわけにはいかない。


 俺は愛想笑いを浮かべながら、背中で泣くほかなかった。

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