誰も知らない物語
第121話 慮外のDeath Penalty
7日。今日で7日目だ。
この数字はわたくし池田が、軟禁生活を送っている日数だ。軟禁場所は不明。盲目状態で連行された。
フランチェスカ前魔王を倒した直後だった。喜びのあまりセリーヌと抱き合っていたところへ、謎の馬車がやってきた。無理やり乗せられた。抵抗も考えた。だが金髪彼女が「あ、これヤバいやつだ。大人しく従った方がええぞ」と大声で喚き散らしたので、仕方なしに背中を丸めた。
そして7日。7日経った。その間、出会った人間は給仕の女性のみ。質問してみたが何も答えてくれなかった。
2日目には盲目から回復していたため、逃げようと思えば逃げられた。だがセリーヌの言葉が耳から離れなかった。結果ここにいる。やることもないままベッドでゴロゴロしている。
「……………」
日課の筋トレでもするか。
果たして魔法を取り戻した俺に、今更筋肉が必要かは不明だ。まぁ無いよりはあったほうがいいだろう。モテたいし。
床に手をつき、腕立ての姿勢を取る。その直後だった。ドアがコンコンされ何者かが入ってきた。いつもの給仕ではない。執事だ。燕尾服に身を包んだオールバックのナイスミドルが立っていた。
「お待たせしましたイケダ様。主がお呼びです」
「あ、はい」
筋トレの態勢を解除して立ち上がる。とうとう軟禁主と会話ができそうだ。
★★★★
金持ちの家特有のバカでかい扉を開く。
室内はザっと30畳ほどあった。中心に円卓が置かれている。それを囲むように同じ装飾のイスが7つ、こちらを背にしている真っ黒のイスが1つ、計8つだ。
7つのイスは1つだけ埋まっていた。正面の席だ。年齢不詳の男が座っている。
「どうぞおかけください」
「はい。失礼します」
真っ黒のイスに座る。座った瞬間理解した。この椅子はお尻に優しい素材を利用している。
「7日もの間、閉じ込めてしまい申し訳ありません。色々と準備が必要だったもので」
「はぁ」
生返事しか返せない。準備とは何だろうか。そもそも目の前の男は何者か。
疑念の視線に気づいたのか、あぁと思い出したように話し出した。
「失礼。自己紹介がまだでしたね。私はロスゴールド。マリスの経済大臣を担っています。よろしくお願いします」
「えー、はい。冒険者のイケダです。よろしくお願いします」
年齢不詳の男性はお大臣様だった。見た目だけで言うと20代後半の実業家だ。年齢不詳としたのは若年層とは思えない雰囲気を持ち合わせていたからだ。大臣なら頷ける。
「……………」
過去に思いを馳せる。豚の彼か、セリーヌか、誰だったかは分からないが、マリスの政治形態の説明を受けた覚えがある。確か大臣の合議制により国家方針を決定しているとか何とか。つまり目の前の男性は、マリスでトップクラスの重鎮ということだ。
「まずは決定事項からお伝えします。イケダさん、あなたは死刑です」
「え」
優男の視線を正面から受け止める。椅子の感覚が無くなった。まるで宙に浮いているような心地だ。
冷や汗が止まらない。死刑。死刑。恐ろしい。心が悲鳴を上げている。
「あの、えーと」
「罪状は国家反逆罪です。心当たりはあるでしょう」
赤髪ミディアムの下からニコニコ顔が覗いている。なぜ笑っているんだ。なぜ強者に限って糸目キャラが多いんだ。
心当たりがないと言えばウソになる。恐らくフランチェスカの件だろう。彼女は俺を探していた。その過程でマリスを攻撃した。つまりマリスに災厄をもたらしたのは俺、という結論に違いない。
「裁判を要求します」
「言ったはずですよ、これは決定事項だと。覆すことは不可能です」
「そこを何とか」
「反応が軽いですね。まさか信じていませんか?」
そんなことはないと首を横に振る。混乱しているだけだ。
ロスゴールド氏が大臣と名乗ったとき、俺は不安よりも期待を覚えた。何か褒賞を頂けると思ったからだ。
なんだかんだありつつも、フランチェスカを退けたのは俺だ。つまりマリスを救ったのも俺イケダ。マッチポンプ要素があるにせよ、結果は結果だ。褒美を期待しても不思議じゃない。
「えーと、あのー。ご存じかと思うのですが、災厄を対処したのは私なんですけど」
「もちろん知っています。セリーヌ・マーガレットさんから聴取しました。一方で災厄の探し人もあなたであることを特定しています。あなたと災厄の間に何があったかは分かりません。ただ1つ言えることは、あなたがいなければマリスが襲撃を受けることもなかった。住民の多くを危険に晒すことも無かった。違いますか?」
「違いま、せんね」
でしょう?とロスゴールド氏が頷く。ぐうの音も出ない。恐ろしいほどの殺傷性を秘めた正論だ。
どこで間違ったか。決まっている。フランチェスカと出会ってしまったことだ。彼女と遭遇したが最後、死ぬか、目を付けられるかのどちらかだった。俺は死を免れ、その代わりに目をつけられてしまった。
その結果がこうして目の前に開示されている。
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