安居危思
第109話 改過自新
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【スキル】
魔封じ:1
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「…………」
ベッドに正座した状態で天井に両手を伸ばす。
「我に魔法を与えたまえ。我に魔法を与えたまへ~」
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【スキル】
魔封じ:1
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「…………」
ベッドから立ち上がり、ドアへ足を向けると同時に右手を振り下ろす。
「ヤー!!!」
もう1度同じ動作をする。
「パワーーー!!!」
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【スキル】
魔封じ:1
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「…………」
よし。
駄目だ。
「朝食食べに行こう」
★★★★
魔法力を失い廃人同然となった俺が連れてこられたのは、ボボン王国第一騎士団の騎士団宿舎だった。収容人数100人の建物に50名強の騎士団員と従業員数名が入居している。
あてがわれた3階の角部屋から食堂へ向かう。各階に約30名程収容できる造りであり、縦というよりは横に長い様相を呈している。
食堂には誰もいなかった。窓口から一膳受け取り、がらんどうの大テーブルで食べ始める。
メニューはパンとスープとサラダと卵料理。美味しい。機械的に口へ入れていく。
10分で食べ終わった。膳を窓口に返却して自室へ戻る。
部屋に入るや否や違和感を覚えた。その正体は一目瞭然だった。ベッドの上に金髪が寝ころんでいたからだ。
「セリーヌさん。おはようございます」
「なんかベッド使われた形跡無いんだけど。もしかして床で寝てんの?キモ」
「おはようございます」
「おはよ」
部屋備え付けテーブルチェアセットの椅子に腰を下ろす。彼女はベッドに寝たままだった。
「ご用件は?」
「その前に。あーしに何か言うことあるだろ」
「パンツ見えてますよ」
「見せてんだよ。おらぁ」
更に見えやすくなるようM字開脚の態勢を取った。俗にいうトランクスを履いている。色気もくそもない。スカートの下にトランクスてどういうコンセプトだろう。
「間違えました。私がここにいる経緯ですね。魔法が使えなくなった私を騎士団宿舎で生活できるよう取り計らっていただきありがとうございます」
頭を下げる。下げつつもトランクスに視線を送る。別に見たくないのに見てしまう心理はどこからくるのだろう。心理学部生なら説明できるのだろうか。
「そうそう。最初からそう言やあいいんだよ。んで、あーしがここに来た理由も分かったろ」
「パンツ見せに来たんですよね」
「ゴミかよ。ただの痴女じゃねーか」
違うのかなぁ、という視線を我慢しつつ彼女を見つめる。すると胡乱げな目で俺を睨みつけてきた。
「まさかタダ飯タダ住みが許されると思ってんじゃねーだろーな」
「え」
一瞬で余裕が吹き飛ぶ。1度も考えなかったと言えばウソになる。ただ何日かは泳がせてくれるだろうと思っていた。まさか1日目にして核心をついてくるなんて想定外だった。
「それは、もちろん許されることではないです。ですが魔法の使えなくなった私はただの青年に成り下がりまして」
「せやな。無能ゴミカスゲロちんぽの称号与えるわ」
「それは言い過ぎですけど。魔法が使えるようになったらゴブリン狩りで返済します。ですのでそれまでは、何とかここに置いていただけないでしょうか」
「いつ使えるようになるん?」
「何ともですね」
「えぇ、ゴミじゃん。返済能力ないくせに借金するバカと同等じゃん。いやそれ以下っしょ。だれかー、こいつ資源ゴミとして出しといてー」
「あ、資源にはなるんだ」
彼女の言う通り、都合のいい提案なのは重々承知している。だが提供できるものがない以上、出世払いもといスキル戻り払いを打診するほかない。
「…………」
スキルが戻ってこなかったらどうしよう。
「はぁー。マジ無能だな。ただの青年じゃ何も出来ない?んなわけねえだろうが。この世界に魔法の使えない成人男性が何人いると思ってんだよ。やっと一般のスタート地点に立っただけだろ。だからその五体満足の身体駆使して宿舎代稼げばいいだけの話。あんだ~すたん?」
「あんだーすたん」
腹立つ言い方だが紛うことなき正論だ。物事に対する明瞭な考え方はクラリスを彷彿させる。始めて姉妹だと実感できた。
セリーヌがネックスプリングの要領でベッドから立ち上がる。相変わらず体型と反比例した運動神経だ。
「というわけで、ついて来いや。お前に仕事を与えてやるよ」
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