第103話 Judgment
ドラゴンバスターから数日が経った。
クラリス御一行はダリヤ商業国首都マリス北門から堂々たる入場で帰還を果たした。先頭をクラリス、殿をシンクが務めるいつものフォーメーションだ。金髪両者の美麗さと騎士団の荘厳さが周囲の視線を集中させる。
俺はシンクの少し前をテクテク歩いていた。隣には盟友かつ疫病神かつゴールドラッシャーのジークフリードもいる。オークの彼にも視線は向けられている。城塞都市アリアやその道中ほどではない。人口密度によってジークの特異性が隠れていた。
ドラゴン討伐パーティは首都中央の十字路を右に曲がり、冒険者ギルドへ足を踏み入れた。100人は収容できそうな待ち合いスペースで整列する。
列の最前に立ったクラリス団長が口を開いた。
「長旅ご苦労だった。皆のお蔭でドラゴン退治という困難な依頼を無事に達成することが出来た。感謝する」
誰もが彼女に熱心な目を向けている。溢れ出るカリスマはギルド中の注目を集めていた。
「これより素材売却を行う。各パーティも素材運搬に協力してほしい。換金が終わり次第、素材売却報酬と依頼報酬を合算した金額を各々に分配する。質問は?」
手を挙げるものはいなかった。クラリスが続ける。
「ではシンク、後は任せる。イケダとパーティリーダーはこの場に残ってくれ」
名指しで指名を受けた。当然だった。これより審判が下されるはずだ。
一気に人がいなくなる。クラリスから指名された3名の他にセリーヌ、ジークフリードも残っていた。
「さて。これよりイケダの適性検査を行う。目的は氷系魔法を使用できるか確認するためだ。是の場合はドラゴン1頭分の討伐報酬と素材報酬の半額がイケダへ渡る。各々異論ないな?」
クラリスがリーダー2名に問いかける。2人とも縦に首を振った。いずれのパーティも1頭の討伐にしか関与していない。そして当初の予定では1頭しか現れないはずだった。2頭目の報酬は棚ぼたのように思っているのかもしれない。
「イケダよ。貴殿には検査を拒否する権利がある。その場合は2頭目の報酬がパーティ全員に分配される。また検査拒否の旨を上に報告する必要がある。さてどうする」
彼女は権利があると言った。しかし透き通った双眸は選択肢など無いと断定しているようでもあった。
検査を拒否したらどうなるだろう。急場はしのげる。ただ今度は御上から検査を受けるよう指示される可能性が高い。断ればダリヤにいられなくなる。
検査を受けたら地獄。断っても地獄。マリスへの帰路で色々考えたが妙案は浮かばなかった。つまり政府の犬確定ルートだ。
何かの奇跡で異世界人の魔法は検知されない可能性がある。期待するとしたらそこか。分の悪い賭けには違いない。
「いえ、検査を受けます。よろしくお願いします。ただ、そのー」
「なんだ」
「私の使用できる魔法全てが皆さんに開示されるのでしょうか?」
「否。検査結果は個人情報に関わるため、我々に直接知らされることはない。冒険者ギルドを通して氷魔法の使用可否のみ通知される」
「分かりました。それなら問題ないです」
問題ないことはない。ただ今はそう答えるしかない。
チラリとパーティリーダー2人を見やれば、ドラゴンナイツのキツネ眼がほくそ笑んでいた。俺の追い詰められている姿が余程面白いのだろう。
彼の考えが全く分からない。黙っていれば労せず2頭目ドラゴンの報酬を得られたはずだ。それを蹴ってまで俺を潰すメリットはない。
性格が歪んでいる。そうとしか思えなかった。余程オークと親しくする人類が憎いらしい。排斥主義も行きつくところは狂人だ。
ジークフリードを見つめる。彼さえいなければ穏便に事を進められただろう。ドラゴンを単身で対処する必要は無かったし、キツネ眼に目を付けられることもなかった。
「…………」
いや待てよと。ふとここで違う考えが浮かぶ。緑の彼が2頭目のドラゴンを発見していなければ、討伐パーティは挟み撃ちに合っていた可能性が高い。つまりイケダというウルトラCを用いてパーティの危機を救ったとも取れる。
まさかこれがラック爆上がりの効果とでもいうのか。だとしたらその影響で窮地に立たされた俺はなんなんだ。幸運適用範囲外かよ。
「アレックス」
「おう団長、戻ったか。その様子だとドラゴンを討伐できたようだな」
考え事をしている間に受付へ到着した。窓口に座っていたのはハゲのひげ面おっさんだった。俺もゴブリン討伐で世話になった。アレックスという名前らしい。
「ああ。ギルド裏手で素材引き渡しを行っている」
「マリス周辺でドラゴンが討伐されるのも久しぶりだからな。高値で取引されるだろうよ。それで、団長さまは依頼報告か?」
「それもあるが、別件でお願いしたいことがある。適性検査室を借りたい。空いているか確認してもらえるだろうか」
「適性検査?誰が使うんだ」
「彼だ」
クラリスは身振りで俺を示した。アレックスおじさんは「あ」と漏らした後、訝しげな視線を向けてきた。
「イケダじゃねえか。お前なんかやったのか」
「やったと思われているので、その確認です」
「はぁ。まぁいいや。ちょっと待ってろ」
それから1分程待ち、アレックスは戻ってきた。
「空いてたわ。使えるぞ」
「よし。ではイケダ、行ってきてくれ」
クラリスへ頷きを返し、アレックスの後に従う。
初めて彼の歩く姿を見るが巨漢だ。ひげ、ハゲ、強面、マッチョ、巨漢と個性が強すぎる。
新手のキマイラだろうか。
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