第100話 Overwhelm

「ジークさん!これはどういうことですか。ドラゴンは1体だけだとクラリス団長が言っていたではないですか」


「お前ぇ!開口一番の台詞がそれか。もっと我を心配しろ」


「ならば私が駆け付けたことをもっと労ってください」


「よく来た!ありがとう!助けてくれ」


 情けない顔で懇願してきた。こういう素直なところは好きだ。


 改めて2体目のレッドドラゴンに目をやる。威風堂々とした姿、鮮やかな紅色は1体目と変わらない。違うのは大きさだ。こちらの方が1体目よりも一回りデカい。圧迫感も2倍だ。


 ステータスを確認してみよう。



【パーソナル】

 名前:アンナ

 職業:夢追い竜

 種族:レッドドラゴン

 年齢:103歳

 性別:女


【ステータス】

 レベル:156

 HP:45454/45456

 MP:8257/8321

 攻撃力:12093

 防御力:14567

 回避力:4455

 魔法力:7535

 抵抗力:4511

 器用:895

 運:1366

 

 

 

「つよ」


 ジャック先輩よりも強い気がする。少なくともレベルとHPはアンナ後輩が上だ。


 最近はステータス1万がデフォルトになっている気がする。ドラゴン然り。マーガレット団長然り。そんなはずはないんだ。人類はもっと脆弱で儚い生き物のはずだ。


 ジークフリードのステータスを確認してみよう。彼は比較的、人類に近しい数値だったはずだ。彼と比べることでドラゴンがいかに凶悪な存在か再認識することが出来る。



【パーソナル】

 名前:トントン

 職業:さすらいのD

 種族:オーク族

 年齢:27歳

 性別:男


【ステータス】

 レベル:80

 HP:6316/6623

 MP:114/114

 攻撃力:1978

 防御力:1573

 回避力:369

 魔法力:90

 抵抗力:1124

 器用:812

 運:99999




「……………」


 いらないなぁ。


 普通にステータス比較したかっただけなのに、余計なノイズが走ってしまう。


「はぁはぁ‥…よーし!絶対防衛圏に入った。これで死ぬことはない」


 息も絶え絶えの様子で俺の背後に退避する。


「おまえ最近変なもん食った?」


「あ!?食ったよ!謎の商人が販売していた謎の果物を食べた。3日間腹を下したわ!」


 食ったんかい。運の爆上がりはそれが原因だろうか。それにしても上がり過ぎである。彼はいったいどこへ向かっているんだ。



 戦略的撤退を敢行したジークだったが、レッドドラゴンからの追撃はなかった。明らかに彼女は標的を切り替えていた。


 視線がぶつかる。勝手に足が震えだす。ジークを助けに来たことに後悔はない。ただドラゴンと戦わされると知っていたら、駆けつけていたかは微妙だ。


「グギャァァァァオ!!!」


「うお」


 こわい。おしっこちびる。誰か助けて。


「おいイケダ、まさか日和っているのか」


「当然でしょう。相手はドラゴンですよ」


「紫女を退けた男の言葉とは思えんな」


「それとこれとは話が別です」


「同じだ。チャチャッと片付けろ」


 思わずジークを睨みつける。なぜ彼は高慢な態度をとれるのだろう。安心がそうさせたというのか。ならばもう1度ドラゴンの前に放り出してやろうか。


「お前をもう1度ドラゴンの前に放り出してやろうか」


「なんで!?」


「お前も蝋人形にしてやろうか」


「それもなんで!?」


「お前に人間のメスを千人送ってやろうか」


「それはいらん。1人でいい」


「グギャァァ!!!」


 どうやら作戦会議に時間を取り過ぎたようだ。しびれを切らしたドラゴンが物凄い勢いで俺に向かってくる。避ける余裕はない。


 落ち着け、落ち着けと自分自身に言い聞かせながら、目の前に氷壁を構築する。数は5枚。フラン先生の手加減雷弾を防いだ代物だ。実績は十分だろう。


 ドラゴンの赤い巨体が氷の壁に衝突する。パリンと割れる音が聞こえた。回数は1度。それ以上の破裂音はない。ドラゴンは頭をグリグリさせて2枚目の氷壁を破壊しようとするも、その効果は微妙だ。


 問題なかった。元魔王と手合わせした経験が大きな財産として実戦に生かされている。足ガクガクさせつつも、ドラゴン"程度"と精神的優位に立てるのは大きい。


 再度氷魔法を使用する。氷壁ではない。今度は細長い氷塊だ。全長3mはある槍形状の氷が天空より物凄い速さで落下する。そのまま氷壁に頭を擦り付けているドラゴンの胴体を貫通した。


「グギャァァアア!!??」


 ドラゴンの絶叫が響き渡る。思わず両耳に手を当てた。今の叫びは向こう側にも聞こえたのではなかろうか。


 レッドドラゴンが氷壁の破壊行動を中止して、撤退するそぶりを見せた。しかし氷槍によって胴体を縫い付けられており、空に飛び立つことは叶わないようだ。


【パーソナル】

 名前:アンナ

 種族:レッドドラゴン


【ステータス】

 レベル:156

 HP:33490/45456

 MP:7157/8321


 HPも着実に減っている。あと3回ほど槍を降らせれば終わる計算だ。


 躊躇する理由はない。今度は同時に3本のなんちゃってロンギヌスを現出させ、ドラゴンの真上から落とした。


「グギャァァァァ………………ァァ」


 計4本に串刺しされたアンナドラゴンは断末魔を上げた後、先程までの騒々しさが嘘のように沈黙した。串刺しの影響で胴体は起きているものの、首は垂れてしまった。


【パーソナル】

 名前:アンナ

 種族:レッドドラゴン


【ステータス】

 レベル:156

 HP:0/45456

 MP:0/8321



 終わったようだ。当初の威圧感も無ければ蘇る様子もない。ただただ屍を晒している。


 呆気ないと言えばそれまでだ。人間風情がと慢心していた影響で攻撃に工夫が見られなかったのも原因の1つだろう。しかしそれ以上に俺の魔法力がドラゴンの抵抗力を凌駕していたのが大きい。


 恐らくは先のゴブリン虐殺によるレベル上昇に伴い、魔法力もアップしているに違いない。スキルポイントも溜まっているはずだ。本来ならドラゴン討伐前に確認すべき事項だった。遅ればせながら後でチェックしておこう。


 そういえばと。ドラゴンを退治したと言うのに緑の彼から何の言葉も無い。歓声を上げるだったり、窮地を救ってくれた感謝を述べるだったり。なんにせよ一言あってしかるべきだ。


 まさか感動のあまり言葉を無くしたのだろうか。あり得ると思いつつ振り返る。


 見慣れた巨体がいた。しかし緑ではなかった。こげ茶色だった。

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