第78話 ステラ調書

【ステラ・コリス 供述調書】

 ――事件当日に被害者とお会いしてから、遺体を発見するまでの行動を教えてください。


 ―――—あの日、マイケルは午後10時過ぎにコリス亭に来ました。軽い食事をした後、その、一緒のベッドに入りました。そういう行為が終わって、マイケルは201号室に入りました。マイケルと別れた後、私はすぐに寝ました。朝起きると両親が帰ってきていました。母と一緒に朝食の準備をしました。その後片付けをしていると、母がイケダさんの様子を見てくると言って、205号室に向かいました。戻ってきた母は、反応が無いし、カギが掛かっていると言いました。私は代わりに起こしに行くと言って、マスターキーを持って205号室に行きました。確かにカギが掛かっていました。マスターキーを使ってドアを開けると、その、遺体が……あ、ありました。


 ――ありがとうございます。マイケル氏とはお付き合いされている、という事で間違いないですか?


 ―――—はい。


 ――いつ頃から交際されているのですか?


 ―――—それって事件に関係あるんですか?


 ――分かりません。今は少しでも多くの情報が必要なのです。ご理解ください。


 ―――—………半年くらい前です。正確な日までは覚えてません。


 ――事件当日に、マイケル氏と会う約束をしていたのでしょうか?


 ―――—はい。夜10時くらいに、うちの宿へ来ることになっていました。


 ――マイケル氏がコリス亭を訪れることは頻繁にありましたか?


 ―――—いえ。ほとんどありません。普段は外で会うことが多いです。ただホワイトロード観光ツアーの日だけは、毎回コリス亭で会っていました。


 ――毎回というと、いつ頃からでしょうか?


 ―――—4か月前です。観光ツアーは1か月に1度あるので、先日の分を含めてコリス亭で会ったのは4回になります。


 ――なぜホワイトロード観光ツアーの日だけコリス亭でお会いしていたのですか?


 ―――—宿から誰もいなくなるからです。観光客はもちろんですが、両親も毎回参加していたので、その日だけは宿を自由に使えました。


 ――父と母の目を盗んで逢引きをしていたということですね。


 ―――—まぁ、そうです。ただ母には気づかれましたけど。


 ――マイケル氏がホワイトロード観光ツアーの日にコリス亭を訪れることを知っていたのはどなたでしょう?


 ―――—私と母くらいです。あと彼のパーティメンバーは知っていたかもしれません。


 ――マイケル氏のパーティについてはご存じですか?


 ―――—ほとんど知りません。リーダーをやっていることくらいです。


 ――マイケル氏は201号室の部屋を借りていた。間違いないですか?


 ―――—はい。


 ――なぜマイケル氏は201号室を借りる必要があったのでしょう?


 ―――—必要、というか。彼は冒険者で一定の住まいがありませんでした。マリスにいる間は宿を転々としていたようです。だからお部屋を取ってあげました。


 ――理由はそれだけですか?


 ―――—あとは、私の部屋にいたら両親と顔を合わせる可能性があったので、それを避けるためもありました。母はともかく父と会ってしまったら、激高するのは間違いないですから。


 ――お父上はマイケル氏の存在を知らなかったのでしょうか?


 ―――—たぶん、知らないと思います。確証はありません。


 ――あなたはマイケル氏とあなたの部屋で身体を交えた。間違いないですね?


 ―――—いえ。あの日はリビングで、その、しました。流れで、はい。


 ――身体を交えた後、あなたはマイケル氏と別れました。その時間を覚えていますか?


 ―――—午前2時ごろだったと思います。


 ――あなたは先程、マイケル氏が201号室に入るのを見たとおっしゃいました。間違いないですか?


 ―――—はい。私は受付のところまで見送りました。彼は階段を登り、左から1つ目の扉、つまり201号室に入室しました。それを見届けてから私は自分の部屋に戻りました。


 ――その後、マイケル氏と会いましたか?


 ―――—いえ。それが最後でした。


 ――マイケル氏は10時頃コリス亭を訪れたとおっしゃいましたね。そこから彼が201号室に入室するまでに他の宿泊客、またはそれに類する者が建物を出入りしましたか?


 ―――—分かりません。お昼は扉に鐘を設置して入退場が分かるようになっているのですが、夜は外しています。あとはその、そういうことをしていたので、扉の開閉音が聞こえづらかったという理由もあります。


 ――コリス亭は誰でも入ることが出来たのでしょうか?


 ―――—建物自体は誰でも入れます。ただ各部屋にはカギがついています。


 ――つまり、誰かがヒッソリ入って、ヒッソリ出ることは可能だったという事ですね。


 ―――—可能だったと思います。特にあの日は観光ツアーの影響でほとんど宿にヒトが残っていませんでした。宿泊客と鉢合わせする可能性も低かったと思います。


 ――客室は10部屋でしたね。1階に5部屋、2階に5部屋。帳簿を確認させていただきましたが満室だった。夜10時の時点でコリス亭に残っていた人たちをご存じですか?


 ―――—1階の5名は全員いなかったと思います。観光ツアー目当ての団体客で、私の両親と一緒にツアーへ向かうのを見送りましたから。2階は、分かりません。


 ――マイケル氏を除く2階の4名は夕食の席に姿を現しましたか?


 ―――—203号室の女性客だけです。それ以外は見ていません。


 ――2時ごろ、あなたはマイケル氏と別れました。その後はどうされました?


 ―――—すぐに寝ました。


 ――あなたがマイケル氏と別れてから起床するまで、不審な物音はしませんでしたか?例えばドアの開閉音や階段の上り下りだったり。


 ―――—わたし眠りが深いんです。ちょっとの物音じゃ起きなくて。だから不審な音は聞こえなかった、と答えるしかないです。


 ――部屋のマスターキーはいくつありますか?


 ―――—2つです。普段はリビングの壁にかけてあります。


 ――各部屋の鍵はいくつありますか?


 ―――—1部屋につき1つです。チェックインからチェックアウトまではお客様にお持ちいただいています。


 ――あなたがマイケル氏と別れてリビングに戻った際、受付に通じるドアの施錠はされましたか?


 ―――—しました。だからリビングには誰も入ってこれなかったはずです。


 ――その際にマスターキーの所在は確認されましたか?


 ―――—してません。


 ――マイケル氏を招いて以後、一番最初にマスターキーを確認されたのはいつですか?


 ―――—朝起きた後です。マスターキーは2本ともありました。


 ――マイケル氏へ恨みを持つ人物に心当たりはありませんか?


 ―――—ないです。


 ――あなたのお母様は朝の9時ごろ、イケダ氏の205号室を訪ねていますね。いつもそうされているのですか?


 ―――—いえ。普段は朝の6時から7時の間に朝食を召し上がるんです。でもあの日だけは9時になっても現れなかったので、不審に思って部屋に行ったんだと思います。


 ――お母様は205号室が施錠されているのを確認し、リビングに戻ってきました。その後あなたがお母様に変わって、マスターキーを手に205号室へ向かいました。何故でしょう?


 ―――—特に理由はないです。まだ寝てるんだったら起こしてあげようと思って。


 ――チェックアウトの最終時刻は11時でしたよね。9時だったらまだ寝ていてもよいと思うのですが、なぜ起こそうと思ったのですか?


 ―――—何故って。宿泊費には朝食代も含まれてるから、朝ご飯を食べないのはもったいないでしょ?


 ――他の宿泊客もそうやって起こしているのですか?


 ―――—いいえ。彼だけです。以前冒険者ギルドの依頼で宿の運営を手伝ってもらって、それからもちょくちょく助けてもらってました。だから母は様子を見に行ったと思うし、私だってマスターキーを使っても怒られないって分かってたから、勝手に部屋へ入ったんです。


 ――マイケル氏の部屋はノックしなかったのですね。


 ―――—マイケルは朝弱いから。特に宿屋だとグッスリ眠れるらしくて。10時にならないと起きてこないのを知っていたので放っておいたんです。


 ――あなたとイケダ氏の関係を教えてください。


 ―――—関係?関係………難しいです。友人とは言えませんし、宿泊客と従業員というのも遠い気がします。わたしは、親戚のお兄ちゃんのように思っていました。


 ――イケダ氏はあなたのことをどう思っていましたか?主観で構いません。


 ―――—嫌われてはいなかったと思います。


 ――1人の女性として好意を寄せられていたのではありませんか?


 ―――—分からないです。優しかったですけど、直接何か言われたわけではないので。


 ――イケダ氏はあなたとマイケル氏の関係をご存じだったのでしょうか?


 ―――—知らなかったと思います。

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