第52話 美乳派の生き様
〖さて、妾も暇ではない。そろそろ終いにするぞ。死に晒せ、下等生物〗
自身のスキルについて新情報を手に入れたのも束の間、差別発言とともに先程よりも一回り巨大な雷弾が放たれた。
「っ…」
MP全快という嬉しい誤算はあった。とはいえ絶体絶命の状況は変わらない。むしろ追い込まれた状況ではMPの件も雀の涙だ。
氷魔法を強化した。MPは満タン。それでも圧倒的な戦力差が埋まることはないだろう。
だから諦めるのか。そんなはずはない。戦うことはやめない。俺達は生きている限り、足掻き続けなければならない。
全力で氷の壁を5枚、前方に構築する。それ以上の数を造る猶予はない。
スキルレベルがどれだけステータスに恩恵を与えるか定かでない。が、一気に10も上げたのだ。せめて何秒かは耐え続けてほしい。お願い。
「うおぉぉぉぉ!」
俺の声ではない。窮地に追い詰められたあまり隣の彼が叫び散らしている。
しまった、忘れていた。先程の問答でジークだけでも見逃してくれるよう元魔王へ嘆願しておくべきだった。俺の暴挙に巻き込まれた形だ。これで死なれるのは申し訳が立たない。
せめてこの思いが伝わるように。
「ごめんジーク!!」
叫ぶと同時、2度目の雷弾衝突祭が幕を開けた。氷と雷、夢の競演再びである。
1枚目。少し粘って砕け散る。
2枚目。大分粘って砕け散る。
3枚目。雷弾は着弾したが、徐々に勢いは消え、氷壁に亀裂を残しながらも徐々にしぼんでいき。最後は跡形も無く消滅した。
「…………」
「………え?お、おぉぉ」
〖……………………〗
嘘だろ。
〖ニンゲンの分際で三分の一を防ぐだと?然も余力を残して………〗
元魔王の独白はこの場にいる全員の気持ちを吐露したかのようだった。
自身でも未だ五体満足である事実を受け入れがたい。どうして、何を以って、どのような経緯で、俺は助かったのか。分からない、分からないが。
元魔王の驚く顔が見られたのは僥倖だ。彼女にとっての予想外は生還への第一歩となる。何度も驚かせて寿命を延ばしたいところだ。
しかし改めて見ると元魔王の顔は中々整っている。色と大きさの影響でケバい仕上がりとなっているが、1つ1つのパーツは素晴らしく秀麗だ。セレスとはまた別タイプの美人さんである。
〖貴様はほんに、ニンゲンか?〗
「ええ。間違いなく人間風情です。対して貴女は何者なのでしょうか」
〖ククク。聞いて驚くでない。我は〗
「あ、やっぱり大丈夫です。興味ないので」
〖…………小僧が〗
「お、おおおおおおい!挑発するなよ!」
滅茶苦茶ビビりながらも忠告してくるオーク。ここまできたら引き下がれないんだよ。
強大な相手と戦う場合は後ろに下がったら終わりだ。前へ前へ、もっと前へ。気持ちだけでも負けちゃ駄目だ。
おもむろに氷弾を数十個、自分の周囲へ創出する。
〖あ?ニンゲン、どういうつもりだ〗
「布石ですよ。いけ」
〖むっ!〗
数分前の惨劇よ再び。全方位に放出された氷弾はそのまま森に吸い込まれる。うち1つは元魔王へと向かったが、見えない壁に阻まれ砕け散った。バリア持ちだったのか。
〖カカカカカ!自身を守ることには長けているようだが、攻撃魔法の才は皆無のようだな、ニンゲン!〗
「ヒトにはだれしも得手不得手ありますよ」
カカカうるさい元魔王に答えながらステータスを確認する。
【パーソナル】
名前:池田貴志
職業:家畜の家畜
種族:人間族
年齢:26歳
性別:男
性格:逆境〇
【ステータス】
レベル:14
HP:201/201
MP:6313/8887
攻撃力:145
防御力:231
回避力:92
魔法力:11231
抵抗力:310
器用:178
運:55
よしきた。今の無差別攻撃で魔物を何匹か倒せたようだ。その証拠にレベルが3も上がっている。今更だが他の項目に比べてMPと魔法力の上昇具合が半端ない。成長曲線バグっている。
スキルポイントも貯まっているだろう。
【スキル】
ステータス:4
回復魔法:10
MP吸収:54
氷魔法:42
スキルポイント:3
もちろん氷に全振り。
【スキル】
ステータス:4
回復魔法:10
MP吸収:54
氷魔法:45
スキルポイント:0
よし、即席強化完了。これでもう少々強い攻撃が来ても耐えられるだろう。
敵方へ視線を向ける。先程まで池田をあざ笑っていた顔が無表情のそれへと変貌を遂げていた。
〖…………ニンゲン。妾は今、非常に憤りを覚えておる。何故か分かるか〗
「いいえ」
元魔王が右手に雷弾を現出させる。大きい。まぁまぁサイズのスイカくらいだ。
〖下らぬ油断により、今の時間まで貴様を生かしてしまったからだ。ほんに自分が情けない〗
とこぼしつつ左手にも同様の雷弾が現れた。
「ちょ」
〖だがそれもここまで。次で本当にサヨナラだ。ニンゲン、意外と楽しめたぞ〗
ニヤァと笑みを浮かべるフランチェスカ。彼女の言う通り、これが最後の会話となるかもしれない。
辞世の句、残しておこうか。
「最後に一句、詠ませていただけますか」
〖許す〗
「ありがとうございます。えー……」
言葉に想いを乗せて。
「オッパイは 大きさよりも 美しさ」
〖…………〗
「………」
久方ぶりの静寂に包まれる。俺の句を吟味されているのだろうか。それにしては彼女の眼差しから軽蔑の色が伺える。
そして返答なく。
出し抜けにフランチェスカの両手から2つの雷弾が発射された。
「え」
ヌルっと始まってしまった。冗談が過ぎたか。しかし死ぬつもりなど毛頭ない。本気で辞世の句を詠めるはずもないのだ。
雷弾が迫る。今回は一味違うとでも言うように、それぞれ左に右に弧を描いて池田へと近づいてきた。動きから察するに自動追尾機能も搭載されているかもしれない。
従来のやり方では防ぎ切れぬと氷壁構築をキャンセル。時間も無いので瞬間的に思いついた防御方法を採用する。ドーム型のアイスウォールを生成だ。
束の間の創造。
次の瞬間、自身とオークを覆い包むドーム状の氷壁が創製される。1枚。2枚。3枚。4枚。5枚。五重張り。匠も驚きの超高速施工だ。
人事は尽くした。あとは天命を待つ。
数秒も経たないうちに雷弾が左右から2つ同時に5層かまくらへ衝突する。その光景を内側から呆然と見つめる。
1層目。砕け散る。
2層目。砕け散る。
3層目。雷弾1つを巻き込み砕け散る。
4層目。もう1つの雷弾とともに砕け散る。
5層目。無傷。
「……………」
「…………」
〖………〗
なんだろうか。
「ジーク」
「……あ、あ!?どどどどどうした!」
「もしかしたら私は、結構強いかもしれません」
「は!?知っている、そんなこと知っているわ!というかまざまざと見せつけられているわ!きさま本当にニンゲン??」
元魔王と似たような反応だ。こいつらは想定外が起こるとすぐにニンゲンかと疑ってくるが、俺達の可能性をなめ過ぎではなかろうか。いずれは空飛ぶ乗り物や何千キロ離れた連絡ツールだって作っちゃうんだぞ。ならば元魔王の攻撃を防いだとて不思議ではあるまい。
「…………」
いや、それは不思議か。
〖き………きさま〗
魔弾の人が苦悶の声を絞り出す。
フランチェスカの魔法力は約10万。対して池田は1万。つまりは差分数万をスキルレベルで補ったことになる。
言われてみれば純粋なレベルアップによるステータス、特にMPと魔法力の上昇は著しいものがある。それに比べてスキルポイントは1レベルに付き1つしか加算されない。
つまりは1ポイントの重みが段違いなのだろう。例えばスキルポイントが1に対して、ステータスは1000とか。今後はより一層、スキルポイントの振り方に注意する必要がありそうだ。
「………………」
今後の事とか考えてて笑けてくる。先程までの絶望一色に希望という仄かな光明が差し込まれた。
さぁ、人生というキャンバスから負の感情を塗りつぶす作業の続きと行こうか。
「………」
ダサすぎて笑える。
「さて、フランチェスカさん。貴女の全力は防がせていただきました。どうでしょう、これ以上遣り合うのは時間の無駄だと思われますが。謝れと言うなら謝りましょう。それで手打ちにしてくれるならば。如何しますか」
煽りつつも譲歩を見せる。2000年以上の歳月を経て酸いも甘いもご存知の魔王様であれば、引き際は心得ているはずだ。これ以上は悪足搔きとなること、想像に難くないだろう。
彼女は俺の発言をゆっくり咀嚼した後、瞼を開けそろそろと語り出した。
〖………………おい、ニンゲン〗
「なんでしょう」
〖いつ、妾が、全力だと言った?〗
「え」
思わず素っ頓狂な声が漏れてしまう。
嘘でしょう。先程の雷弾が本気ではなかったというのか。確かによくよく思い返すと、「全力」や「本気」という言葉は発していなかった。それにしたって段階を刻み過ぎだし底が見えなさ過ぎる。
「ば、ばかな……あの威力が全力ではなかっただと……?」
オークの彼がダラダラと汗を垂れ流しながら言葉を零した。それ当事者の俺が言うべき台詞なんだけど。
〖ニンゲンよ。正真正銘、妾の本気を食らうがいい!カカカカカカ!!!〗
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