第48話 コアラハンターたかし
ここにきて池田、驚異的なひらめきを見せる。
「そうか。アイスウォールの持続時間が5分程度ということは………」
この氷像も5分後に氷解する可能性が高い。その程度なら死ぬ公算は低い。しかも氷中にいる都合、仮死状態とやらの状態にありそうだ。
「あ」
ここにきて池田、またもやひらめきを見せる。
ブル・ドッグ伯爵は死んでいないかもしれない。
まずい。非常にマズイ。俺が去って5分後にブルドッグが復活、目の前にはお持ち帰りしてアヘアヘさせるつもりだった小娘が健在だったとしたらどうだろう。
セレスは大丈夫だろうか。いや彼女は大丈夫だ。ブル・ドッグが今度こそ死んだろう。火だるま確定である。
だたそうなると、俺のした行為は全く意味を為さなくなる。こんなことならキッチリとどめを刺しておくべきだった。詰めが甘い性格はこの世界でも変わらない。
これは完全なるしくじり。盲目完治直後であったことは言い訳にできない。
「どうしたイケダ」
「こいつ、動きます。5分後に」
「何だと?……いや、そうだな。我も目にした機会は数度だが、いずれの氷魔法使いも何分と氷結状態を持続させることは叶わなかった。つまり貴様も同様だろう」
「ええ。ですので5分ほどお待ちいただけますか」
「分かった」
その間にちょこっと考えよう。1人札幌雪祭りでは仕留めること能わず。であれば一撃必殺の氷魔法を創成する必要がある。
必殺か。やはり先端の尖っている鋭利物が良さげだろう。魔物の身体を突き破る感じの。
カタチはフィクションでよく見る立体的なひし形。大きさは成人男性の掌サイズ。
「……………」
よし。
構想は整った。早速試してみよう。何度か深呼吸を繰り返した後、徐々に手のひらへの集中を加速させる。
氷だ、氷。掌サイズの氷塊。
氷氷氷氷氷氷氷氷氷氷氷氷氷氷氷氷氷氷氷氷氷氷氷
ほれ。来い。
「……………」
「してイケダよ、どのようにしてこの魔物を………氷?」
大きさは成人男性の掌程度。カタチはひし形ではなく縦に細長い六角形。創成された氷塊が掌上でフワフワと浮いている。
いいね。やるね。
もう1つおまけにその氷塊が付近の木へ飛ぶよう念じてみる。行け行け。
浮遊していた氷塊が突如動き出す。目を見張るほどの速さだ。向かって左の木へ衝突する。そして容易く突き破った。背後の2本目、3本目もぶち抜き、4本目の木でようやく勢いを止めた。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「悪くないですね」
「むしろ強すぎるだろう。貴様の氷は留まるところを知らんな」
ということで5分後。
「そろそろか」
「ええ」
コアランから10m程離れた地点。隣のオークがつぶやく。
既に氷塊を形成していた俺は、未だ氷漬けのコアランに照準を合わせる。さぁいつでも溶けてくれ。
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「あれ?」
「氷解する気配がないな。どういうことだ?」
コアランに変化はない。愛らしい表情のまま氷の中で固まっている。
「5分経ちましたよね?」
「ああ。そろそろ8分に突入するぞ」
どういうことだろう。何らかのイレギュラーが発生しているというのか。もしくは5分という時間がそもそも間違っていたか。
いや待てよ。
「考え方が間違っていたかもしれません」
「どういうことだ」
「5分という数字はあくまで氷壁が消失する目安でした。一方でコアランは氷漬けとなっています」
「なるほど。つまるところ、物体を凍らせた場合の氷解時間は分からぬと?」
「ええ。何分かかるのか。もしくは………」
一生このままなのか。
言葉の先が予想できたのだろう。彼は呆れや驚きがごちゃ混ぜになってよく分からない表情を浮かべた。
「自身の魔法の性能を把握できていない魔法使いなんぞ初めて拝見したぞ。まぁひとまず承知した。今後は物体を凍らせる行為は控えた方がいいな」
「ええ」
氷像は5分で溶けなかった。予想を裏切られたという意味では望ましくない結果だ。しかし一方では僥倖な結末と言える。
やはりブル・ドッグ伯爵は死んだかもしれない。もしくは仮死状態を継続中だ。それならばセレスが無駄に犯罪を犯すことも無かったはずだ。つまり俺がやったことも無駄にならずに済んだ。
「よかった」
「あ?全く良くないだろう」
★★★★
シュルシュルと音速を奏でる氷塊は目にも留まらぬ速さで対象物を襲撃する。
「?…………グギャ!!」
ぽっかりと胸に大穴が開いたコアラン。驚愕を顔に張り付けたまま背中を地面にして倒れた。
『…………』
2人して恐る恐る近づく。
「………うむ。絶命している」
「そうですか」
気を取り直して氷塊の攻撃実験に移った。氷漬けコアランはあの場に放置した。いつか溶けるといいな。
足元ではコアラっぽい生き物が胸から血を噴き出して死んでいる。日本時代であれば動物愛護団体に糾弾されそうな行為だ。だがここは異世界。ひいてはコアラに何の愛着も無いのでそれ程胸は痛まない。
「この調子で何匹か倒していくぞ。………っと、そうだ」
お豚さんがコアラン(亡)のもとに膝をつき何やらモゾモゾとしている。
「うむ。よしこれだな」
と言って立ち上がる。
「どうしました」
「ああ。これを取ったのだ」
と言って黒い物体を見せつけてくる。
「なんですおれ」
「コアランの鼻だ」
「え、もいだんですか?」
凄まじい残虐性である。何だかんだオークしているではないか。逆に安心した。
「違う。コアランの鼻は取り外し可能なのだ。そしてこの鼻を冒険者ギルドへ持ち寄ると金になる」
「なんと。あれですか、魔物の素材というやつですね」
「そうだ。昨日までは金に困っていたわけでもなく、わざわざ死骸から収集する必要が無かった。とはいえ貴様はギルドカードが欲しいのだろう?であれば発行料金を稼がなければならない」
「そこで魔物の素材集めですか」
「うむ。我が一時的に金を貸与することも考慮したが、食費はともかく宿代の返金も滞っている。然るに何から何まで我が世話をすれば、いざ1人となった時の苦労は想像に難くない。そこでだ、せっかく魔物を殺すのだから、こうして屠った魔物の素材を収集すれば貴様の手で金を作ることができる。魔物を殺す経験ができ、金策も十分、冒険者の体験も可能となれば、一石三鳥だろうよ」
「おお」
素晴らしいではないか。後々の事まで考慮されている。童貞オーク界いち有能と言っても過言じゃないだろう。
「それはいい。実にいいですね。分かりました。ありがとうございます。次回からは自分が素材を取りましょう」
「そうしろ。ちなみにコアランの鼻は1つ200ペニーだ。おおよそ首都でのギルドカード発行料金は1万ペニーと耳にしたことがある。つまりは最低でも50匹仕留める必要があるな」
「はい。仔細ありがとうございます」
「ダリヤ商業国の、特に首都へ続く道路近郊の森はコアランかコアランより少し強い程度の魔物しか生息していない。油断は禁物だが、そう気張る必要もないだろう。我もいる」
「了解です。頼りにしています」
「うむ」
こうしてコアラン狩りに勤しむこととなった。
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