第45話 オーク交渉
きっちり宿屋の主人に嫌な顔をされた後、無事にダブルの1部屋をゲットした。
お金はオークが払ってくれた。お前こっちの金は払ってくれるんかいと文句を言いそうになったが、施しを受ける身の態度ではないと思い自制した。何でもツッコめばいいというものではない。
各々のベットに座り相対する。
「さて。人間の国に入場したわけだが」
「今後の話ですね」
「そうだ。我としては責務を果たした故、あとは貴様に人間の女性を紹介してもらい終わりとしたい」
「えーと」
「なんだ。もしや貴様、契約を破る気か」
「いえ、そういうわけではないのですが」
戸惑いを言葉に乗せつつ考える。
俺はこの都市を拠点にできない。なぜならアリアは獣人国とダリヤ商業国の境目だ。つまり商業国の中でも獣人族の比率が高い都市と言えるだろう。その中にはブルドック伯爵との諍いを目撃した者や、伯爵サイドの獣人が内在する可能性がある。
たとえ逮捕されることは無くても騒動は避けたい。つまり獣人族の少ない都市を活動拠点にするのが吉だ。
しかしオークの彼に俺の事情は通用しない。一刻も早く人間の女を紹介して欲しいと望んでいることだろう。
そうなるとこの地で人間の女性をオークに引き渡し、他の都市へは1人で向かうこととなる。ただその選択は出来うる限り避けたい。
理由はいくつかある。他都市の位置なんて分からない。レベル1が1人では戦闘面に不安を覚える。食料と水の供給を断たれるのが辛い。
このように羅列すると、如何に彼が有能で池田が無能であるかはっきりと示される。1人暮らしで自立していた日本時代の面影はない。
あらためて思い知らされる。ハイテクノロジーがダメ男を1人でも生きていけるレベルまで引き上げてくれていたのだ。日本は素晴らしい国だった。
「…………………」
訝し気な視線を向けてくるオークを見つめる。
彼には彼の事情があるだろう。それを承知で他の都市まで同伴していただけないだろうか。
「おい。黙っていないで何か言え」
「少々お待ちください」
「あ?」
仕方がない。少々賭けになるが、お豚さんの興味を引く話題をもとに説得を試みよう。知識は大したものだが所々見せる頭の弱さに望みを託す。
改めてジークフリードの眼を見つめ直す。あぁ、相変わらずブサイクな面だ。
「ジークさん。この星に女性が何人いるか知っていますか」
「急になんだ。知らないが」
「私もです」
「え?」
「ただ、この地より多くの女性を抱えている都市は存在します。例えばそう、首都とか」
「たしかにダリヤ商業国の首都マリスは世界で2番目の人口を誇る大都市だが」
「女性の数だけ恋があります」
「…………」
「…………」
「何が言いたい」
食いついた。是が非でも釣りあげたい。
「首都に行きませんか」
「貴様と共に、ということか」
「ええ。確かにこの都市でも女性の紹介は出来ます。ですがそれはある意味で妥協した女性です。限られた数の中で選ばざるを得なかった相手でしょう」
「貴様の言わんとしていることは理解した。だが探す前から決断を下す必要もあるまい」
「ええ、ええ。分かります。ですがこの都市で女性を探している間に、首都にいらっしゃる運命の女性は異なる地へ旅立つかもしれません。それでいいのでしょうか?」
「運命て。考えが飛躍していないか」
「確率の話をしています。女性の少ないこの地で運命を探すか。女性の多い首都で運命に出会うか。あなたはどちらを選択しますか」
「それは、そう言われたら首都を選ぶが」
「では首都に行きましょう」
「いや、だが、なにか、まったく納得がいっていない」
先程の強気な態度が一変してオロオロしだした。やはり自身の持つ知識の範囲内では饒舌だが、外に出てしまうと途端に脆くなってしまうようだ。
攻め手は緩めない。
「付け加えると、先ほど都市内をざっと見渡しましたが、先日遭遇した女魔法使いのような風貌をした女性はいませんでしたよ」
「な、あ、あの女性は関係ないだろう」
「ああいうヒトが好みなのでしょう?」
「………………」
顔を逸らした。分かりやすすぎるにも程がある。
ここぞとばかりに彼の肩に手を当てる。うわ硬い。ブヨブヨしていない。
「安心してください。私が責任をもって首都マリスで例の女性に酷似した女性を探し出して差し上げましょう。出会って4秒で殺しに掛かってくるような女性をね」
「いやそこに惹かれたわけではないのだが…………ふむ。まぁ、そうだな。取り急ぎやることもない。ゆえに、貴様の旅に付き合ってやらんこともない。だが、だが貴様、決して自分の発言を撤回するんじゃないぞ。もしそのような事案が発生した場合は、我は貴様に何をするか分からん」
「任せてください。こう見えて女性と10分以上会話を続けたことがあります」
「早速不安にさせるようなことを言うな」
なにわともあれ引き続き首都まで同行いただけることとなった。
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