第44話 城塞都市アリア
検問を無事通過し建物の中へ入る。
外観は砦そのものだった。防衛施設の意味合いが強い以上、滞在する人数も少ないだろう。
そんな想定とはかけ離れた光景が目の前に広がった。そう、圧倒的な人の数が視界を占めているのだ。もちろん獣人国首都ビーストには遠く及ばないが、予想を裏切られたという意味ではこちらの方が驚きは強い。
アジア圏でよく見られる小規模な商店街も形成されている。中々賑わっているようだ。
「ここは城塞都市アリアといってな。防衛と交易を兼ね備えた地として有名だ」
「へぇ」
なるほど。町村レベルではなく都市の範疇に入るようだ。都市の定義は定かでないが、これ程の人数を抱えるならばその呼称も頷ける。
「アリアは数十年前に獣人国との間で勃発した戦のために建造された要塞だ。戦時中は鉄壁の防衛能力を示すことで獣人の攻撃に耐え抜き、戦争後も検問所として活用されている。またダリヤと獣人国の交易品が最も多く集まるのもこの地だ。総じて商業国の名に恥じぬ都市と言えるだろう」
「説明ありがとうございます。アリアについても聞きたい事はありますが、その前によろしいですか」
「なんだ」
「ギルドカードは紅魔族領で取得したのですか?それと私自身は入国許可証を発行していませんが、この場合はどうなりますか?」
「うむ。前者から答えよう。察しの通り紅魔族領の冒険者ギルドで発行したのだ。あーそもそもだな、冒険者ギルドは世界各地に存在する。その価値に優劣はない。もう少々噛み砕いていえば、冒険者ギルドという団体が各地に支店を開いて冒険者相手に商売をしているといったところか。本店はこの地、ダリヤ商業国の首都にある。ちなみに冒険者ギルドのような国境をまたいで商売を行っている団体は他にも存在する。例えば貴様が世話になったであろう教会もそうだ。彼らは国に売上の何割かを献上することで場所を借り商売を行うといった形態を採用している」
「なるほど」
文明レベルから個人商店規模の集まりかと想像していたが、どうやら立派に企業している団体もあるようだ。
「各地に散らばる冒険者ギルドだが、基本的にお金があれば誰でもギルドカードを発行できる。と言っても魔物の類はお金を集められないか入国拒否されることが多いゆえ、ギルドカードなんぞ持っているモノは稀だ。我は紅魔族領で生まれ育ち、魔物を狩りその素材を売ることによってお金を貯め、紅魔族領の冒険者ギルドでギルドカードを発行した。そういうことだ」
なるほど。魔物でも知能があれば人類の仲間入りを果たせる部分には驚きだが、それ以外はおおよそ想像できる内容だ。
しかし以前から感じていたが、このお豚さんは1度話し出すと長い。それ程知識が深い表れなのだろうけれども。もう少し短くまとめられないものか。長話で嫌われることはあっても好かれることは無い。
「前者は分かりました。後者はどうなのでしょう」
「うむ。通常は入国許可証を発行しなければならない。ただ今回は我の存在が功を奏した。ギルドカードに記載ある冒険者ランクが一定以上であれば、都市に対する入退場の権利が同伴者へ与えられるのだ」
「なんと」
ギルドカード凄いな。冒険者のランクとやらが一種の社会的地位を築いているのだろう。さらには彼の口上から推察するに上位ランカーであることは間違いない。俺の同伴を許されたのが証拠だ。
「それは素晴らしい。改めてありがとうございます」
「礼はいいから女をよこせ」
「ただ。今後を考えると入国許可証の発行は必須の気がするのですが」
無視して話を進める。今は彼と行動を共にしているが、いずれは分かれる日が来る。その時のために許可証は必要だ。もしくは。
「金は?」
「えー、いや、そうだ。先にギルドカートを手に入れます。そうすれば入国許可証は必要なくなりますよね」
「ギルドカートの発行にも金がいる」
「貸してください」
「その前に女だ」
「お金が先です」
「馬鹿な。女が先に決まっているだろう。早く紹介しろ。オークの事が好きすぎて夢にまで出てくる奇特な未亡人を」
「そんな注文ありましたっけ?」
しかも未亡人好きとか性癖が謎過ぎる。これ以上キャラを濃くする必要など無いというのに。
自分が厚かましいのは重々承知だ。しかしここまで世話をしておいて、お金だけは貸さないというのもおかしな話だ。過去に金の貸し借りでトラブルがあったのだろうか。
「よし。とりあえずは無事入国を果たしたということで。消耗品類の補充をするため商店にでも………いや」
「はい?」
「買い物は明日にして今日は宿を取ろう。そこで話がある」
「分かりました。ところでオークでも宿に泊まれるのですか」
「ギルドカードを提示すれば問題ない。嫌な顔はされるが」
ギルドカードが万能過ぎる。やはり優先すべきはギルドカート発行だ。
「では行こう」
宿屋へ行くことと決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます