第40話 オーク絶対殺すマン

 とは言えこの状況は俺も予想外だ。オークの自信には裏付けがあった。俺もこの眼で抵抗力の高さは確認している。つまりは俺たちの予想よりも彼女の魔法が高品質なのだろう。


 時間にして5秒ほど。彼にとっては何時間にも思えただろう苦行タイムが終了する。


 地面に転がっているオークに視線をやる。全身から煙を放出していた。見るからに焦げている。大丈夫か。


 「ふん!オーク風情が」


 最後は捨て台詞を吐いて終了。見立て通り強気っ子のようだ。


 「ジーク!」


 「うぅ………」


 どうやら生きてはいるようだ。ひとまず安心。


 彼との付き合いは僅か数日と短い。互いを十分に理解しているとは言い難い。


 だが目論見はどうであれ世話になっていることは事実だ。彼がいなければ、俺は未だあの森で彷徨っていたかもしれない。命の恩人と言えよう。


 加えて今後もおんぶにだっこ状態が続くだろう。毎日食事が自動で出てくるとか最高の環境だ。今更だけど母上ありがとう。願わくば奥さんを連れて実家へ凱旋したかった。


 「…………」


 少々しみじみとしたところで気持ちを切り替える。


 こんなところで我がパーティーの根幹を失うわけにはいかない。


 「次はあなたね。このオークとどういう関係か知らないけど、黙ってこの場を立ち去るなら見逃さないこともないわ」


 先程はまとめて始末すると言っていたが、どうやら気が変わったらしい。女性の気持ちの移り変わりは春先の天気よりも気まぐれだ。


 「見逃すという言葉は適切ではありませんね」


 声を発しつつもジークフリードのステータスを確認する。



【パーソナル】

 名前:トントン

 職業:さすらいの童貞

 種族:オーク族

 年齢:27歳

 性別:男


【ステータス】

 レベル:78

 HP:2312/6023

 MP:110/110

 攻撃力:1820

 防御力:1333

 回避力:356

 魔法力:82

 抵抗力:1024

 器用:712

 運:1414  


 

 大丈夫そうだな。


 ステータスには表れないが状態異常:火傷を患ってジクジクとHPが削られている可能性はある。とはいえそう簡単に死なないだろう。恐らく。もし危なそうなら回復魔法を使えばいい。


 「つまり、この私と戦うってこと?」


 「いえ。戦いたくはないです。はい。えーとですね、逆に貴女がこの場から立ち去る、というのはどうでしょう?」


 「は?あなたとこのオークを見逃せってこと?」


 「ええ。そうなります」


 「あなたはともかくこいつは駄目ね。私がここで殺さないといらぬ犠牲が生まれるかもしれないじゃない」


 「彼は博愛主義者であり人族を襲わない稀有なオークです」


 「初対面のあなたの言葉を信じろと言うの?」


 「信じてください」


 「嫌よ。軽薄そうだし」


 「軽薄……」


 猜疑心を伴った目で見つめてくる。


 どうだろう。軽薄という表現は決して誉められた表現ではない。しかしその実、チャラ男やヤリチンのようなモテ男子の固有スキルと言えるだろう。


 どうやら俺も異世界に触発されて陽キャへの道を進み始めたようだ。これはもしかすると、目の前の港区系女子ともワンチャンあるやもしれない。


 ということで相手を知るためにステータススキル、オン。



【パーソナル】

 名前:アリサ・ミンティア

 職業:冒険家

 種族:人間族

 年齢:19歳

 性別:女



【ステータス】

 レベル:52

 HP:932/935

 MP:1413/1640

 攻撃力:63

 防御力:312

 回避力:300

 魔法力:1715

 抵抗力:1278

 器用:711

 運:598  



 おお。


 やはりというべきか。格好に違わず魔法特化系のようだ。この魔法力であれば彼を半焼きにするのも不思議でない。


 ただ同じ魔法使いとしては幾分か俺が上回っているように思える。


 「そもそも何故あなたはオークを庇うの?そいつらに善悪など存在しないわ。全世界の女の敵なのよ。殺す以外ありえない」


 「相手がニンゲンでも同じことが言えますか?」


 「馬鹿じゃないの。ニンゲンは殺さないわ」


 「なぜ?」


 「オークのように何も考えず女性へ襲い掛かることはしないから。それに言葉も通じないし」


 「彼は襲い掛かりませんし、言葉も通じます」


 「ふん。それが?」


 「あなたの方が余程言葉が通じませんね」


 「ケンカを売っているの?」


 「お前だろクソガキ」


 「……………」


 あ。


 やば。


 思わずタメ口を使ってしまった。いやそこじゃないか。ケンカを売ってるの?という言葉に喧嘩を売ってしまった。ゲシュタルト崩壊してまう。


 アリサ・ミンティアは凄みを増した視線でこちらを睨んでいた。俺が悪いのだろうか。しかし彼女は明らかに聞く耳を持たなかった。会話の出来ない相手にはそれ相応の言葉を返しても問題はあるまい。


 「もう、いい。あなたはそこで見ていなさい。邪魔立てすれば……分かるわね」


 アリサが杖を構える。詠唱を始める気配だ。


 「………………」


 さて。

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