第37話 オーク情勢は複雑怪奇

 謎の再会だった。とりあえず彼と戦わずに済んだのは僥倖だ。ステータスから考えるに負けるとは思わない。しかし戦いは何が起きるか分からない。イレギュラーに対応できない以上はイベント戦闘を回避するのが吉だ。


 現時点で敵ではないことが分かった。そうなると俄然欲が出てくる。話して分かる系オークのようだし、何とか味方に出来ないだろうか。護衛兼案内役として役に立つだろう。


 「あー、ジークフリードさん」


 「なんだ」


 なにかオークを惹きつける話題を言わなくては。例えば彼に欲しいモノがあって俺がそれを提供できるとしたら。利害関係の一致は共闘への第一歩だ。


 とは言えオークの欲するもの。なんだ。名誉か。金か。肉か。


 ステータス見ればわかるかな。




【パーソナル】

 名前:トントン

 職業:さすらいの童貞

 種族:オーク族

 年齢:27歳

 性別:男


【ステータス】

 レベル:78

 HP:6012/6023

 MP:110/110

 攻撃力:1820

 防御力:1333

 回避力:356

 魔法力:82

 抵抗力:1024

 器用:712

 運:2424 


 

 

 「なんだ。黙るな」


 「そうですね。えー」


 少々レベルが上昇した程度しか分からない。欲しいモノはなんだ。オークだろう。オークが欲しいモノ。オークの行動理念。


 オークが常に欲しているモノとは。


 「………………」


 女肉かな。


 「ジークフリードさん」


 「だからなんだ」


 「人間族の女性が欲しくありませんか?」


 「なっ!?」


 驚愕の表情を浮かべている。小説や漫画ならエクスクラメーションマークとクエスチョンマークが隣同士のやつだ。


 「き、急に何を言い出すかと思えば。我は貴様の話す内容が理解できん」


 「理解できないは嘘でしょう」


 「いや。まぁウソだが」


 「………………」


 なんなのこいつ。


 「1つ確認させてくれ」


 「はい」


 「………オークを好いてくれる人族は、この世に存在するのか」


 つぶらな瞳で問いかけてきた質問はあまりに純真無垢な内容だった。何と答えるのが正解か迷う。正直に伝えれば絶望するだろう。


 いや、そもそもの話。 


 「あなたは人間族と和姦がしたいのですか?」


 「まぁな」


 「まぁなて」 


 異常者かよ。オークの風上にも置けない。オークだけど人間族の女に恋しちゃいました、的なタイトルのラノベ主人公かこいつ。


 「オークと言えば強姦では?」


 「ククク。貴様のような古い考えに固執する者を世間では老害と言う。多様性を認められない人種に進化はないぞ」


 「でも他のオークの皆さんはニンゲンの女性を強姦しているでしょう?」


 「してる」


 「何なんだよお前」


 事実だとしてもそこで認めるなよ。もう1つ反論して来いよ。


 「だが我は違う。相手の嫌がることはしない。したくない。これこそ我がオークの中でもスペシャルと言われる所以よ」


 「はぁ」


 その割にはずっと僕たちの事ストーカーしてましたよね、と言ってやってもよかったが、どうせ変な反論してきそうだったのでやめた。


 種族特性を考えると彼の考えは異質だ。未だそういう経験がないのも頷ける。 


 「よし。では行こうか」


 「え。どこに?」


 反射的に質問する。突然何を言い出したんだと顔を見やれば、何故か向こうがキョトン顔を晒していた。これどういう状態だ。


 「どこって。人間族の女性が暮らす街だ。紹介してくれるのだろう?ん?ああ、分かっている。その対価として我は貴様に安全と食糧を提供しよう。他に望みがあれば言ってくれ」


 「話はやっ」


 何と物分かりの良いオークだろう。さぁ相手がこちらの提案に興味を示したところで今から交渉に移ろうではないかという時だった。まさか即決しただけではなく、こちらの要求までくみ取ってくれるとは思わなかった。しかも思い描いていた通りの内容だ。ここまでくると恐ろしいを通り越して気持ちが悪い。


 「きもちわるい」


 「どういう思考を辿ったらその言葉が出てくるのが見当もつかんぞ」


 確かに唐突が過ぎる言葉だ。謝罪しよう。心の中で。


 「いやちょっと待ってください。そちらの提案はとてもありがたいです。渡りに船です。しかしあなたはつい先程まで私達に、私に復讐心を燃やしていたでしょう。こんな短時間で切り替えられるものですか」


 「復讐などという非生産的行為に身を費やすくらいだったら、生涯の伴侶に巡り合える機会を優先することに何ら躊躇はない。肉、食べるか?」


 復讐心だけでここまでストーキングしてきた男の言動とは思えない。まことオークの天地は複雑怪奇なり。


 そんな感想を抱きつつオークの正面に腰を下ろす。実は先程からお腹が空き過ぎて倒れそうだったんだ。


 「あ、頂いていいんですね」


 「もちろんだ。それと貴様と我はギブアンドテイクの仲、つまり対等な関係だ。敬語はいらんぞ」


 「あ、そうか。じゃあ。えー。早く肉よこせや太っちょブサイク」


 「うん。対等の意味は知っているか」


 こうしてオークの彼と行動を共にすることとなった。

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