第24話 ヴィレッジ
獣人国へ入り2日。
橋の出口にもヒト、というか獣人が立っていたようだが、声を掛けられることはなかった。どうやら検問は入り口だけのようだ。
獣人国は紅魔族領と比べて木々が少ない。無いわけではない。ただ、日差しを遮るほど育ち切った草木は見られない。見えないけど。視界を圧迫される感じが皆無なためそのように推測している。
魔物との遭遇戦にも違いがある。エンカウントは多いと言えず、質も何段階か下がるらしい。思うに紅魔族領が異質なのだろう。よく生きていられたものだ。
セレスに至っては獣人国へ入国後も歩みを止めることはない。まるで初めから答えを知っている迷路のようにスルスルと歩いて行く。獣人国は初めてのはずなのにだ。
「…………」
こいつ大丈夫か?と思ったのは数回じゃ足らない。前例があるため不安は増すばかりだ。とはいえ数日、いや十数日迷っても死ぬことはない。紅魔族領で実証済みである。今はただ従者のごとく黙って従うのみだ。
俺は異世界に降り立ち泰然自若になった気がする。ほんの少しだけだけど。
「……………あ」
セレスが何かに気づいた。立ち止まる。
「どうしました」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「………………村が、ある」
どうやら、獣人との初イベントが発生するようだ。
★★★★
獣人の村へ入った。
村は木柵で囲われ、木造建築が立ち並ぶザ・村といった様相を呈しているらしい。
村の敷地へ足を踏み入れた途端、右からも左からも視線を感じた。どうやら注目を浴びているようだ。異物が混入してきたら警戒もするか。
「ようこそ、ベア村へ。旅人の方々ですか」
正面から声が聞こえた。村人が話しかけてきたらしい。獣人だろうか。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
まずい。セレスが何も言葉を返さない。どのような意図か定かではないが、これでは不審に思われる。
仕方がない。ここは従者兼通訳の池田が行くしかあるまい。
「あー、その。歓迎いただきありがとうございます」
「あなた、目が……いえ、失礼。お客様は紅魔族領からいらっしゃったのでしょうか」
「ええ、そうです」
「どちらも魔族、ですか」
口調は丁寧だ。しかし声色からは少々の警戒が感じられる。
「私は人間族ですがこちらの女性は魔族です」
素直に答えた後にハタと気づく。これ程に呆気なく個人情報を晒してよかったのだろうか。相手は初対面。しかも外見は不明。少々軽率が過ぎたかもしれない。
「そうでしたか。いえね、盲目の男性と普通の少女なんて珍しい組み合わせだと思いまして。獣人国へは観光ですか?」
「いえ。治療ですね。獣人国の首都に用事がありまして」
人と人との関係は信頼から始まる。余計な嘘をついてボロを出すくらいなら正直に話したほうが良いだろう。もしも騙されたなら、セレスの魔法で何とかしてもらおう。
「そうですか。首都まではまだかなり距離がありますから、この村で休んでいくのをお勧めしますよ。無料ではありませんが宿もありますし、雑貨や食料を売っているお店もあります。一息つくには最適の場所ですよ」
「そうなんですね。いろいろ教えて頂きありがとうございます」
「いえいえ、こちらも打算があってのことなので。実はすぐそこに居を構えている家、あれが村で唯一の宿でして経営者は私なのです。よかったら、後でいらしてください。では」
と言い残した後、足音が遠ざかっていった。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「……………どうします?」
「…………」
「…………」
「………………宿に、行く」
「おお」
久しぶりに屋根のある場所で休める予感だ。と喜んだのも束の間、最大にして致命的な問題に気づいてしまった。
「あ、でもお金がありませんよ」
「…………ある。お父さんの、お金」
「え?あ、もしかして家から闇魔法:収納で持ってきたのですか。さすが」
「……でしょ」
「ただ、なんでしょう。ええと、紅魔族領と獣人国では同じ貨幣を扱っているのですか?」
異なる場合はどこかで両替する必要がある。もしくは宿の主人が紅魔族領の貨幣でも支払OKと言うのなら無問題だ。
「…………大丈夫。お金はどの国も……同じの使ってる…………って、お父さん言ってた」
それは便利だ。アメリカやヨーロッパでも日本円で買い物ができる感覚か。
「であれば宿も利用できそうですね。ただ、私はお金を持っていないのですが」
「………………私が払う」
「自分は野宿でも構いませんよ」
「…………ばかなの?」
「え」
急に暴言?
「馬鹿とは、いったいどういう意味でしょう」
「…………………私がここにいる意味、考えて」
「ああ」
なるほど。
盲目の池田は介護なしでは生きてゆけない。にも関わらず1人きりで外泊するなど常軌を逸していると。そう言いたいのだろう。確かにそうだ。迷惑をかけまいと思った結果、更に迷惑をかけるところだった。
それにしても。久々に暴言を吐かれた気がする。バカなのって。本来は落ち込むところだが、相手がセレスだと話は別だ。クール系女子のボソッと冷罵は何物にも代えられない魅力を備えている。
「軽率な発言申し訳ありません。お言葉に甘えまして宿泊させていただきます。お金は後程返したいと、そう思っています」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
宿へ行くことと決めた。
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