第22話 さすらいのD

 橋を歩く。歩く。ただひたすらに。


 地面の感触とセレスから伺った外観から憶えるにどうやら大きな石橋の形状をしているようだ。横幅は約10m。長さは不明。ヨーロッパ、石橋で検索して出てくる画像をイメージしている。


 それからしばらく。


 顔に夕日が当たる頃合い。かろうじて橋の終わりが見える位置まで進んだ。セレス曰く、橋を渡り終えるよりも日の沈む早さが勝るだろうとのこと。午前中から歩き始めたというのに、この時間まで橋上に滞在するとは思わなかった。余程大きい橋なのだろう。


 通行人はまばらだった。幸か不幸か声をかけられることは無かった。その逆も然り。 


 「セレスティナさん、今日中に橋を渡り終えますか」


 「……………」


 「……………」


 「………………うん」


 「分かりました」


 どうやら橋上での野宿は回避するようだ。ありがたい。もちろん崩壊することは無いだろう。ただこういった建造物の上で一夜を明かすことに潜在的な恐怖を感じる。


 「……………」


 「……………」


 「……………」


 「……………」


 しばらく無言で歩く。さすがにこれだけ共に過ごす時間が多いと、少なからず無言タイムは存在する。ただ苦痛ではない。セレスが発する空気のお陰か、それとも相性が良いのか。


 日本時代は沈黙が怖くて無理やりにでも間を埋めていた。その時間は会話が続いていただけで親交が深まっているとは言い難かった。その証拠に、"そういう"時間が多かった相手とは長続きしなかった。コミュニケーションの難しさに思い悩んだ時期もあった。


 「……………………」


 ピタッと。セレスが立ち止まる。不自然な挙動だ。そして前方に気配。瞼の裏で光が小躍りしているあたり生き物が現れたようだ。


 もしかして知り合いが向こうから歩いてきたのだろうか。


 「………………ククク」


 「え」


 あれ。


 何故か笑っている。しかも明らかにこちらを嘲るような声色だ。嫌な予感しかしない。


 「ヤハリ、ココヲトオルカ、コムスメ」


 「あら」


 この片言。耳にしたことがないと言ったら嘘になる。


 「………………」


 「………………」


 「………………」


 「………………」


 無言を貫き通すセレス。いつでも無言。常に無言。だがそれがいい、それでいい。どうかそのままの貴女でいて欲しい。高校では寡黙な図書館系女子だったのに大学に入るや否や金髪ピアス系リア充に変貌した絶望感は異常だ。何をそんなに無理をする必要があるのか。そのままの貴女が一番素敵だったのに。結局テニサーのヤリチンに弄ばれてそれでもなお一皮むけたとか良い経験になったとか宣うのがオチだろう。


 「…………」


 ただし、それはあくまで外部からの視点であり、本人の人生が充実しているならば文句を言えるはずもない。権利もない。ヤリサーの経験を経て素晴らしい家庭を作る場合もあるだろう。そうだ、だから三嶋さんだって捨てたもんじゃない。今は巣鴨のピンサロに勤務しているらしいけども。


 「…………目、治ってる」


 「ククク、キヅイタカ。ソウ、グウゼンコウマゾクリョウデレニウスノプリーストトソウグウシテナ。ミノガスカワリニチリョウシテモラッタノダ」


 「えぇ」


 こいつもレニウス帝国の侵入者と出会ったのか。しかもダークワールドを回復出来るようなヒトと。運が良すぎて引く。


 一方で我らが遭遇したのはシリウスとかいう狂信者だった。この違いは何なのか。


 「メガナオッタワレハ、キサマニフクシュウスルコトヲチカッタ。キサマノスミカヲサガシテモヨカッタガ、ソウイエバキサマノツレモオナジマホウニカカッテイタノヲオモイダシタ。レニウストハテキタイシテオリ、コウマゾクハカイフクマホウノツカイテガスクナイ。クロマゾクモドウヨウ。トスレバ、ノコルハジュウジンコクシカアルマイ。ワレハハンツキマエカラ、ココデマッテイタ」


 「えーと」


 片言で聞き取りにくい。もっと滑らかに話せないものか。オークに求め過ぎだろうか。


 というかこのオーク、15日間も待ち伏せしていたというのか。時間有り余ってるな。卒論書き終えた4年生かよ。


 「…………………」


 「ククク、オドロキスギテ、コエモデマイ」


 もしセレスか俺が高度な回復魔法を使えていたらどうしていたのだろうか。その考えに至らない辺り、知能は外見違わずといったところだ。


 「サァ、アノヒノカリヲカエシテヤル。イクゾ、コムスメ」


 「……………」


 「えーと」


 恐らく。向こうがどんな対策をしていようともセレスなら難なく勝てる。と思う。


 とは言うものの油断は禁物だ。一応、念のため相手のステータスを確認しておこう。橋上にいるお蔭で大体の位置は把握済だ。


 このあたりだろうと、オークに向けてステータススキルを放つ。


 

【パーソナル】

 名前:トントン

 職業:さすらいの童貞

 種族:オーク族

 年齢:27歳

 性別:男


【ステータス】

 レベル:67

 HP:4403/4430

 MP:102/102

 攻撃力:1460

 防御力:998

 回避力:344

 魔法力:82

 抵抗力:885

 器用:691

 運:7777

 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る