第13話 沈黙の決断
池田の1日が始まる。
朝日と共に起床。朝食の用意をしていたセレスに濡れた布で顔を拭いてもらう。スッキリ。
その後彼女に手を引かれトイレゾーンに連れられる。ボットン式に座りション。
立ち上がろうとした瞬間、片足がトイレ穴にズボッとはまり尿まみれとなる。セレスを呼びトイレゾーンから脱出した後、濡れた布で尿まみれの足を拭いてもらう。ひたすら謝罪。
朝食の時間。定期的に口を開け、ただ咀嚼するだけのマシーンとなる。セレス様からのアーン。パク。アーン。パク。ごちそうさまです。
朝食後、彼女は家事に勤しむ。その間に池田は盲目状態で家の中を歩く。歩く。ただ歩く。足元から始まる周囲の気配を肌で感じながら歩く。歩く練習をする。
昼食。アーン。パク。アーン。パク。
昼食後、お腹に違和感が走る。セレス様にトイレゾーンに連れて行ってもらう。
大きい方をする。ここで異変。アレがトイレ穴に落ちる気配を感じ取れなかった。セレス様を呼び、穴から少しはみ出たとこに出没しているアレをトイレ穴に落としてもらう。漏れなく謝罪。
午後。セレス様と共に狩りへ赴く。
彼女の指示に従い、右に動いたり左に動いたりしゃがんだりジャンプしたりする。戦闘不参加にもかかわらず汗まみれの池田の側で単独の狩猟終了。本日の戦果は鹿っぽい生き物1匹。らしい。
夕食。アーン。パク。アーン。パク。
夕食後、身体ふきふきタイム。濡れた布で上半身と足をふいてもらう。さすがに下半身は自分でふいた。
就寝前。先がギザギザしたハブラシっぽいもので歯を磨いてもらう。歯ブラシなら盲目でも出来そうだが、何故かやらせてもらえないので素直に口を開けるマシーンと化している。
最後にトイレに連れて行ってもらい、就寝。
この介護生活を1週間続けた。
★★★★
夕食後。寝支度をしているセレス様に意を決して話しかける。
「あの………セレスティナさん」
「………なに」
「スキルって、聞いたことあります?」
「……………」
「……………」
「………………ない」
ない。そうか。
「では、レベルは?」
「…………ない」
「そうですか…」
ない。
つまりステータスとかスキルとかレベルとかという概念は、日本から迷い込んだ異星人特有のものかもしれない。魔法使いのセレスがスキルを存じ上げない事実が何よりの証拠である。
そうか。そうか。
これは話しづらくなった。
世界がステータスレベルアップシステムを容認していれば、回復魔法と氷魔法にポイント振ったんすよーで話がつく。
だがそんなことはなかった。
今の俺はいきなり魔法が使えるようになった異常者だ。何と説明すればいいのか。だからといって秘密にしておくのもどうか。
せっかく異能を手に入れたのだからセレスの負担を減らしたい。最近はもう頼りに頼り過ぎて死にたくなる。物心ついて以降は母上にさえこれ程お世話になったことはない。しかもセレス様にとっては、まだ出会って10日と経たない怪しげな男だ。俺が彼女の立場であれば介護数時間でこの無能を見捨てる自信がある。
秘密にしたままセレス様に助力できるか。無理だろう。盲目だし。器用でないし。
だったら打ち明けるしかない。
でもやばい奴だと思われちゃう。
どうしよう。
「……………」
力を隠していたパターンで行くか。
恐らくは評価が下がる。ある意味嘘をついていたのだから。俺だったらメチャメチャ嫌う。おまえ自分がヒーローになるタイミング伺ってただろと思ってしまう。力があるなら最初から使うべきだ。
しかし、大学で学問や研究に傾倒せず漫然と過ごしていた典型的なモラトリアム野郎ではこの方法しか思いつかない。
仕方ない。ひたすら謝罪して何とか許しを頂こう。
「…………」
しかし、今の俺はどの程度の強さなのだろう。有り得ないとは思うが、もしもラスボスや魔王クラスだったら距離を置かれるかもしれない。
どうやって確認しようか。
「ふぅ……」
「……………」
なんか。
見られている気がする。まだ起きているのかな。
「あ」
そうか。俺にはステータススキルがあるじゃないか。恐らくは自分だけではなく他人のステータスも確認できるんじゃないか。試してみる価値はある。
ということで視線の向こう側、セレスのステータスを見たいと念じる。
こいこい。こいこい。
数秒念じたところでブワンと何かが視界に広がった。
【パーソナル】
名前:セレスティナ・トランス
職業:魔導師
種族:変態族
年齢:19歳
性別:女
【ステータス】
レベル:75
HP:966/1024
MP:1020/1202
攻撃力:888
防御力:612
回避力:734
魔法力:1480
抵抗力:1322
器用:745
運:311
「…………」
おお。見れた。素晴らしい。ステータススキルいいじゃないか。戦いの本質は情報にあり一方的に戦力を確認できる能力は極めてチートである。今後も重宝しそうだ。
セレス様のステータスをザっと見る。
「………」
あぁ、うん。そうか。
分からん。
レベル75の上に平均1000程度のステータスだ。恐らくは強い、はず。ただ比較対象が俺しかいないため断言はできない。
魔法力だけ取ってみれば俺に分がある。何故なら盲目は嫌なので魔法力に極振りしてしまったからだ。
少なくとも氷魔法や回復魔法を使う場合は4分の1以下程度の威力を意識する必要があるかもしれない。異端だと思われないように。セレスと同等かそれ以下を意識して。
あとは自身のステータスと比べ所々確認できない項目がある。スキルや性格だ。恐らくはステータススキルレベルを上げれば開放されるのだろう。
よし。
このくらいか。
うん。
種族とかどうでもいいな。
「………………そろそろ、寝るね」
「あ、その前に。1ついいですか」
「…………」
「明日の午後、お見せしたいものがあります。狩りの前に少し御時間いただけますか」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「……いいよ」
「ありがとうございます。おやすみなさい」
魔法見せても嫌わないでくれるといいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます