第5話 魔法
家に戻りし後。まずは色々な要因により汚れちまったパンツを水洗いする。ゴシゴシ。
どうにか全部洗い流し再び履こうとしたところ、セレスティナに止められた。どうやら火魔法で乾かしてくれるらしい。魔法って便利。
乾ききったパンツを譲り受け装着する。多少ゴワゴワするが濡れ濡れよりはマシだ。
そうして後始末が終わり、セレスティナ……セレスへの質問タイムに入る。
「あれは魔法、ですか」
「………うん」
「へー」
はい。
終わりました。
あんな光景を見せられては肯定せざるを得ない。
ここ、めちゃめちゃ異世界。
「………………」
あー。
「あー」
そうか。そうですか。
幾ばくかの寂寥が胸中に流れる。残念だ。あのぬるま湯のような生活に浸る機会は失われてしまったのだ。恐らく永遠に。
「…………」
とはいえ魔法。魔法か。ワクワクしかない。
この辺りの切り替えの早さは元来の気質もあるが、日本への未練がさほどないことも影響している。こうなっては妻や彼女がいなかった事実が僥倖に思える。
すっかり頭はファンタジーモードへと移行した。とりあえず気になる質問をしちゃったりしてみる。
「火の魔法以外にも使えるのですか」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「………水と闇」
「おお」
素晴らしい。3つも使えるのか。出来る女だセレス。
しかも火、水、闇。中々バランス良さげな組み合わせだ。雰囲気的に。
「それぞれどのような用途があるのでしょうか」
「……………………」
「……」
「………水は、攻撃。それと飲み水や……排水にも」
なるほど。これは概ね予想通り。水魔法による攻撃とはいったいどんなものなのだろう。タイダルウェイブか。
「……闇は、攻撃、攪乱、隠蔽、それと……モノの、収納」
さすがの闇魔法。用途は多岐にわたるようだ。格好いい。素晴らしい。
攻撃と隠蔽はそのままの意味だとして。攪乱というのはゲーム等でよく見る暗闇効果だろうか。
収納。これは素晴らしい。チートだ。恐らく亜空間みたいなところと接続して、物の出し入れが自由にできるのだろう。
とりあえず褒める。
「すごいですね。3つも魔法が使えるのですね」
「…………凄いかは、分からない」
そうか。森深くのポツンと一軒家に単身で住んでいる子だ。近くに比較対象がいないのかもしれない。改めて思うが謎の生活してるな。
「魔法はど、どなたから教わったのですか」
少しどもった。
「……………」
「……………」
「……………」
無言だ。ただ、無言の質が違う。
これは駄目だ。答えてくれないパターンだと思う。
「えーと。では、その魔法を教えていただくことは可能ですか」
では、ってなんだよとか思ったが言ってしまったものは仕方がない。
「……………いいよ」
「お」
マジか。
ダメ元でお願いしたのだが、あっさりと承諾してくれた。
これは。
ワクワクが止まりませんね。
★★★★
室内では危ないというので外出。
比較的木々が少ない広場のようなところに移動する。
年甲斐もなくウキウキが止まらない。
なんと言ったって魔法だ。魔法。フィクション・オブ・フィクションの賜物なのだ。異世界=魔法と言っても過言ではない。
とはいえ。このようなパソコンにしか能がない社畜野郎にも魔法は使えるのだろうか。いわゆる適性と言うやつだ。
だが教えてくれるという。つまりセレスティナから見た池田は、可能性が感じられるということだろう。
興味が上回ることは否めないが、今後の事を考えると何かしら生きる術は必要だろう。それが魔法であれば万々歳だ。
セレス先生、よろしくお願いします。
「…………まずは」
「はい」
「………………」
「………………」
「………………」
「……………火の球を、手のひらに出す」
「え」
「…………はい」
ボワンと。
右手に火の球を出し、ほらやってみろといった表情で池田を嘱目する。
「え、あの」
「………………」
「もう少し、具体的にその、方法というか、えー、そうですね」
「……なに」
「だから、そのですね」
「…………ハッキリ言って」
いやお前がな、とツッコみそうになるのを必死で抑える。まさかボケをブッコんできたとも思えない。ならば素だろう。
「………すみません、1度おうちへ戻りましょう」
「………………」
なるはやで魔法を習得しようとした俺が悪かった。
色々と確認させていただこう。
★★★★
「まずお聞きします。魔法の源はなんでしょうか」
「…………魔力」
おお。鉄板だ。
「人間にも魔力はあるのでしょうか」
「…………」
「…………」
「……………あると、思う。お父さんが、言ってた」
おお、よかった。そしてここでお父さんという単語ゲット。
「お父上はヒトと関わりがあったのですか」
「…………ニンゲンが、支配する……レニウス帝国との、戦争に……参加した」
レニウス帝国。今日は新種の単語が頻出だ。
戦争が勃発したということは、今いる紅魔族領と隣接しているのかもしれない。
そして参加したと過去形で話した所以は、戦争が既に終結したか、もしくはその戦争で父親が、と言ったところか。
重たそうな話はもう少し仲良くなってから聞いてみよう。
「ということは人間にも魔法は使えるということですね。セレスティナさんはどのように魔法を習得したのでしょうか」
少し質問を変えたが、要はどこのどいつに魔法を教わったかを聞いている。今度は答えてくれるか。
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「…………………お父さんと、お母さんに、教わった」
おお、答えてくれた。この数時間で好感度上がったか。
「具体的に、どのように教わりましたか」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「……………分かった」
え、なにが。
★★★★
セレス先導の元、再び広場へ行く。
何が分かったのだろうか。早く教えて頂きたいところだ。
「……………」
「……………」
セレスが立ち止まり、こちらへと振り返る。
「…………お父さんと、お母さんに教わったように………教える」
「おお」
これは大きな前進だ。人類にとっては小さな一歩だが、セレスにとっては大きな飛躍だと言える。
「よろしくお願いします」
「………うん。まずは」
まずは。
「…………………身体の中の、魔力を感じる」
うん。
「コツ等ご教授いただければ幸いです」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「…………………身体の中の、魔力を感じる」
セレスにとっては偉大な飛躍だが、池田にとっては小さな一歩だった。
★★★★
とりあえず言われた通り、身体の中に存在すると思われる魔力を意識してみる。
「……………」
「……………」
「……………」
「…………感じた?」
「いえ、まったく」
「…………」
「イメージとしては、身体のどのあたりで感じられますか」
「………………最初は、お腹。集中すると………身体全体で」
丹田とやらから、血管を駆け巡る感じか。それともチャクラというやつだろうか。
「ふっ!」
丹田に力を込める。丹田の正確な位置なんて分からないけど。お腹あたりに意識を集中する。
「はっ!」
「……………」
「せいっ!」
「……………」
「へあっ!」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「…………感じた?」
「いえ、まったく」
これはもう、駄目かもしれない。
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