第4話 Nice to see you!
翌朝。
朝食をいただいた後、早速情報収集の続きといく。
場所はトランス家のリビング兼キッチン兼寝室。池田は木の床に正座。セレスティナは台所でカチャカチャと食器を洗っている。
背中へ向けて言葉を発する。
「セレスティナさん、屋外には危険がありますでしょうか」
まずはこの質問から。外堀を埋めていこう。
「……………危険」
なるほど。テンションに流るるまま外に出ず僥倖。
余談だが排せつは室内から行っている。仕切りで隠された空間がトイレエリアだ。地中にちろちろと水が流れており、そこに落とす仕組みとなる。いわゆるボットン式というやつ。
「危険というのは、何かが存在するのですか。それともニンゲンには耐えられない自然環境なのでしょうか」
「…………」
「…………」
「………………魔物がいる。襲ってくる」
「まもの」
魔物ですって。漢字合ってるよな。パソコンで予測変換してもこの単語しか表示されないだろうし。
「……………」
これほぼ確定かもしれない。ワンチャン比喩の可能性はある。魔物のような存在が襲い掛かってくると。しかしあまりに穿ち過ぎだ。
とりあえず質問を続ける。
「屋外に存在する魔物は、一般的な人間と比べてどの程度強いのでしょうか」
「……………」
「……………」
「……………」
ここは質問を変えよう。
「一般的な人間の強さは分かりますか」
「………知らない」
もうちょっと分かりやすい質問が良かったか。
「では、セレスティナさんと比べて、野外にいる魔物は強いですか。弱いですか」
「………………私の方が…強い」
魔物の強さとセレスティナの強さ。どちらも定かではないが、少なくとも彼女1人で対処できるのであれば、共に行動する限り絶望ピースをかます可能性はグッと低くなるだろう。
とはいえ。この家で2人終生暮らすというわけにもいくまい。そもそもなぜ目の前の少女が俺を助けてくれるのか甚だ疑問なのだ。その疑問を晴らさないことには話が進まない。
いずれにせよ実際に見てみないことには「魔物」とやらの実体もつかめない。
よし。
「セレスティナさん。私に魔物との戦いを見せていただけませんか」
★★★★
ところかわって外。
鬱蒼とした森林が俺たちを囲んでいる。木々で太陽が隠れているのだろうか、かなり雰囲気は暗い。ムカデとかクモとか、いわゆる日本人全般が苦手としている昆虫群がウヨウヨいそうな雰囲気である。魔物よりもそちらの方が怖いかもしれない。
周囲に他の建物は見当たらない。完全にポツンと一軒家状態。これはトランス家の孤立感半端ない。よくこんなところに1人で住めるものだ。
トランス家を振り返る。茅葺き屋根の白川郷スタイル。インフラ、建築様式諸々から察するに文明レベルは昭和以下。下手をすると中世ヨーロッパの時代まで遡るかもしれない。
「……………」
いや、まだだ。まだ分からん。俺はドッキリの可能性を捨てない。異世界へようこそなんぞ、フィクションの中だけで十分なのだ。
「………………」
何も言わずにスタスタと歩いて行くセレスティナ。ついて行く俺。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
しばらく木々をかき分ける音のみが続いた後。
「………ここ」
少々開けたところで止まった。
池田の目には森の木々しか映らない。
「くる」
セレスティナが初めて沈黙を置かずに話した。
とか思った瞬間、彼女に向かって黒い物体が物凄い速さで接近してきた。なんだあれ。ゴキブリか。それにしては大きい。体長50cmくらいだ。
びびる俺。動じないセレスティナ。
今気づいたが、セレスティナは何も武器を持っていない。
どうする。どうするの。
若干パニくる池田の横でしずしずと彼女は紡ぎ出した。
「……………出でよ炎」
何やら怪しげな言葉を発した直後。彼女の両手に火の塊がボワっと出現した。
「火っ!」
こわ。怖すぎる。これアパート大火事トラウマになってるよ。
「ファイヤーボール」
池田がパニくるのをよそに、己へ近づく黒い物体へ火の球を2つ放る。すると着弾した瞬間に黒い物体が爆ぜた。
爆ぜた。
チリチリと焦げた音が耳を打つ。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「………帰る」
「あ、はい」
彼女の背中を見つめながら。
俺は諦めのこもった溜息を零した。
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