第2話 無言の住人

 気が付くと、白い部屋に立っていた。


 











 ということもなく。




 ★★★★




 パチッと。


 目を覚まし。


 素早く身を起こす。


 「火っ!」


 目覚め一発、脳裏に浮かぶは全身が燃え上がるのをまざまざと見せつけられたハードなナイトメア。


 こわっ。


 今更だが怖すぎ。一番最初に火刑を考えた奴は気が狂っていたに違いない。あんなもん、正気の沙汰ではない。


 とりあえず火達磨地獄からの脱却に一安心。次に去来するのはなぜ?という思いだった。


 なぜ俺は5体満足で生きているのだろう。


 ハテナである。先ほどのアパート大火事が夢だとは思えない。何故ならこの世のモノとは思えない痛みを感じたから。よく耐えられたと思う。いや耐えたわけではないけど。


 とりあえず。よく分からないので周囲を見渡してみる。どうやら室内にいるようだ。調理場らしきスペースとタンスらしきもの、それと謎の仕切りがある。全体で15畳程度だろうか。

 

 それ以外は何もない。


 「…………」


 いや、語弊があった。物はないが何かがいる。


 徐々に目がはっきりとしてくる。


 そして、目の前の何かと焦点が合う。




 女の子が立っていた。



 「……………」


 「……………」



 双方無言。なんだこいつは。まさか、ご待望の座敷わらし登場か。なんということだろう。我が家が燃え尽きし後、知らない家の中でわらし娘に出会えるとは。


 と現実逃避はここまでにして。状況から察するに、目の前の娘はこの家の住人に違いない。


 見た目は普通だ。普通の少女。何の変哲もないどこにでもいそうな女の子。


 色々とお話したいところであるが。


 「…………」


 これは、こちらから話しかけた方がいいのだろうか。口下手なのだが。


 思い出す。暗い中学生活からおさらばするため高校デビューを飾った初日、隣の席の雨宮さんに「これからよろしくね」とスキンシップジャブを放ってみたところ、「え、きもっ(笑)」と一蹴された苦い思い出を。思えば慎重男子になったのはあの出来事がキッカケだったのかもしれん。


 あぁ、やはり話しかけるのは待とう。急いては事を仕損じるというし。


 「……………」


 「……………」




 ★★★★




 3分後。 


 無言が続く。相変わらず女から話しかけてくる様子はない。しかし視線はぶつかっている。バチバチである。めちゃめちゃジト目である。


 これ以上待っているのも無駄だろう。こちらから話しかけよう。


 俺も20代半ばの社会人。対人スキルはそこそこある。


 目の前の小娘に話しかけることなど、取引先の部長へ謝罪に行くことと比べたら造作もないのだ。ああ、まったく問題ない。   


 「えー、あ、あの」


 「……………」


 「ここは、いや、あなたは」


 「……………」


 造作もあった。落ち着こう。1つ1つ、順番に行こう。


 「すみません、こ、ここはどこでしょうか」


 「……………」


 「……………」


 「……………」


 「……………」


 全然返信ありません。Mail Delivery Subsystem状態。久しぶりに学生時代の友人にメール送ってこの英文見たら、微妙にショック受けるよね。そもそもつい数年前までガラケーを主武器としていた情弱池田に問題がないこともない。


 日がなスマホ弄ってる奴って何見てんだろ。俺なんて夜寝る前にスマホを確認すれば、余裕で充電90%超えてるんだけど。ニュース見るくらいしか用途ないんだけど。


 「………」


 いや、待てよと。ここでふとした疑問が舞い降りる。


 もしや言葉が通じないという可能性はないか。よく見たら髪の色とか灰色だし。有り得るな。


 となると必然的にここが日本でないという可能性は高くなる。


 まぁ、とりあえず試してみよう。


 「Where is―――」


 「……私の家」


 返事があった。それも日本語で。


 「私の家というのは、都道府県で言うとどのあたりでしょうか」


 微妙に日本語がおかしい気がするが、言いたいことは通じるだろう。まさかその他離島出身でもあるまい。送料バカ高いところ。


 「……………」


 「……………」


 「……………」


 「……………」


 うーん。


 これ俺が悪いのだろうか。


 

 

 ★★★★




 5分後。


 恐らく質問の意図が伝わっていない、ということに気づいた。気づくの遅すぎとか思わないまでもない。


 ということで少しニュアンスを変えてみる。


 「あの、私の家というのは、地図上ではどのあたりに位置するのでしょうか」


 これならばと、熱い想いを込めて見つめる。


 「……………」


 「……………」


 「……………」


 「……………」


 駄目か。


 「………紅魔族領」


 きた。


 いや、きてない。


 そんな答えは望んでいない。


 「こうまぞくりょう………?」


 何言ってんだこいつ。

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