性格重視で何が悪い

でぶ殿下

プロローグ

第1話 始まり

 ブルーライトの画面をジッと見つめる。


 場所はありきたりなオフィス。有楽町の片隅にあるビルの4階。むさくるしい男どもの巣窟。


 カタカタとタイピングの音だけが室内に響き渡る。


 「池田君。ちょっと」


 課長に呼ばれる。席を立ち、窓際のデスクへ行く。


 「池田君。今の作業、どれくらいで終わりそう?」


 「今日の17時までには」


 「そっかぁ……だったら、この作業もお願いできる?」


 ペラリと。メール文をそのまま印刷した用紙を渡してくる。件名には【緊急依頼】という文字が見えた。


 緊急か。魔法の言葉だな。


 「期限をおしえ」


 「今日中に、できる?」


 ちらり壁掛け時計を見やる。ちょうど15時を回ったところだった。


 現作業。先程課長には17時と言ったが、本当は16時に終わる想定だ。空いた1時間はネットサーフィンでもしようかと思っていた。


 しかしここに至って追加作業が舞い降りてしまった。まさか俺の魂胆がバレたのだろうか?いや、そんな深謀遠慮の持ち主ではない。単純に部員のタスク量を平準化した結果、俺に振っただけの事だろう。


 ちらりメール文を見た限りでは3時間程度の作業量かと。つまり予想退社時間は19時。残業1時間。


「分かりました」


 よし。


 本気出して定時までに終わらすか。




 ★★★★




 きっちり想定外が発生し、結局1時間オーバーの20時に退社。21時に木造二階建てのアパートに帰宅する。


 「ただいま」


 …………


 もちろん返事はない。返事があったらいいな、とたまに思う。


 座敷わらし的な存在が家に住みついて、そこから始まるほんのり優しく切ないショートストーリー、的な。


 実際に返事があるとすれば母上か泥棒の線が濃厚だろうけど。



 シャワーを浴びた後、スーパーで買った惣菜を平らげ、布団に寝ころびながら小説を読む。


 「……………」


 悪くない。悪くはない生活だと思う。


 普通に飯を食えて、普通に娯楽を享受できて、普通を普通だと感じられる環境。何の不自由も感じない。最高の中年一歩手前である。


 強いて言うなら彼女かお嫁さんの1人でも欲しいところだが。まぁ焦る必要もあるまい。


 仲良さげな女の子はいる。何度か食事に行った子だ。よく笑ってくれるし話も合う。あと普通にキレイ。正直俺には勿体ないヒトだ。


 1つ問題があるとすれば、その子が社内でヤリマン呼ばわりされているくらいか。


「…………」


 そういえば同期の田中も2回いったと言ってたな。


「………」


 ヤリマンか。


「……」


 寝るか。




 ★★★★




 ハタと目が覚める。


 おかしい。目覚めが悪い。


 十中八九深夜帯だろう。目覚まし時計に目を向ける。するとどうしたころだろう。


 背景が真っ赤。


 なんだ。なにが起きている。


 というか熱い。暑いではなくて熱い。


 「あつっ!!!!」

 

 は?どういうこと。


 目茶目茶大火事なんですけど。


 布団燃えてる。というか俺以外燃えてる。


 あ、俺も燃える。


 あつあつ!


 これ、ファラリスの雄牛?違うよな。いや、えーと、そうか。俺のアパートが火事ってことか。これだから木造建築は。住処を家賃一択で選んでしまった1年前の俺を呪いたい。


 というかなぜこれ程になるまで気づかなかった。神経狂ってるよ。布団にまで燃え移ってるぞ。我ながらおかしいを通り越して異常者でしかない。


 意識を失いたくなる程の痛みが身体中を駆け巡る。熱さが意識を保たせる。声にならない叫びが焼け付いた喉から放出される。


 ふぁらりす。たしかにこれは拷問として成立する。


 熱い。死ぬ。怖い。熱い。熱い。あぁ、最悪。



 耐えられないほどの熱さに強制的に耐えさせられて数分。


 ついに俺の意識は落ちた。

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