第5話 心を揺らせ
合宿を終え今日は一日オフだった。明日の試合北山と善前の試合は私たちにとっても大事な試合で明日全員で見にいく事になっている。
私は家に帰ると久々の我が家の匂いにすごく安心した。
「ただいまー!」
「雫おかえり〜!」「しず姉帰ってきた!!!!」
出迎えてくれているのは妹とお母さんでお父さんは今日も仕事らしい(いつもご苦労様です)。
温かい家&合宿の疲れ、この二つのワードで私は疲れまくってるはずなのに何故か私は休憩する気にもなれなかった。
「ねぇ!おねーちゃん!」
私の部屋の戸を大きく開け妹の美未(5歳)が無邪気に入ってくる。
「お!どうかした?」
「あんなー?みみな?サッカー上手になったお?」
目を輝かせ、どう?すごいでしょ?って顔で見てくる。そんな姿はまるで昔の私のようで
「ほれ!お姉ちゃんとやる?」
手を頭に置き優しく聞いてみる、すると美未の大きな目がさらに開き広角が上がった。
「うん!やる!!!!」
そんな二つ返事だった。そんな返事を受けた後私はある人物にメッセージを送った。
「おねーちゃん!ぱしゅ!ぱしゅう!」
かつて父と遊んでいた近所の公園は遊具の錆は増えてる気はするけど配置や草の量は変わっていない気がした。
「えー!このブランコ懐かし〜!」
私が公園の思い出に目を奪われていると、
「おねーちゃん!ボール!けってけって!」
プンプンと不満そうな声が聞こえてくるのでそちらを見る、すると小さな足に私のお下がりのサッカーシューズを履いた美未が遠くから今か今かと待っている。
「…お!ごめんごめん!…ほい!」
私は少し優しめにボールを蹴ってパスを出す、それを必死に足の裏で止める美未が愛らしい。そんな小さなパス練習をするだけでも美未のサッカーへの思いや努力の表れが伝わってくる。
「美未上手だね!やっぱお姉ちゃんの妹だから才能あるな〜」
そんな冗談めいた事を言ってみたが返しは意外なもので
「うん!みみね?がんばってね?おねーちゃんみたいになるってママに言った!」
「…そ、そんなこと言ったの?(苦笑)」
「うん!おねーちゃんみたいにね?みーんなにおーえんされるカッコいいお姉さんになるって決めた!」
「っ!に、荷が重い…!」
「でもね?一番なりたいのは暦おねーちゃん!だってねだってね?3人おっても絶対取られないんだよ?」
私が照れているのを紛らわそうとした矢先すぐに棘が飛んできた。
「暦…上手だもんね…(お姉ちゃんよりも)それに今日呼んであるよ」
本当は今日暦を家に呼ぶ事にしていた、それは一人だと色々考えちゃうから…お互いに。だから前からよく試合前は二人でいることが多かった。
「え?!ほんとに?!暦おねーちゃんに会えるの?」
「うんそうなるね」
美未はやったー!と何やらみた事あるポーズ(多分誰かのゴールパフォーマンス)をしている。まぁ久しぶりだしね。
「ねねねぇ美未?暦が来るまで少し休憩しない?」
「いや!暦おねーちゃんくるまでまずは、き〜そする!」
き〜そとは多分基礎のことだろう。(え?私は基礎で暦は応用なの…?」
それからしばらくして練習をしていると…
「暦ねぇちゃんだ!!!」
美未の声に反応するようにそちらに視線を向けた、そこには何やら大量のお菓子を両手に握りしめている暦がいて、私服がとても綺麗で暦らしい格好だ。
「暦それどうしたの?」
「美未ちゃんが好きなのわかんなかったから」
「…だとしてもその量は凄い。これ…一万はいってるよね?」
「分かんないけど、皆で食べれば大丈夫」
うん、そういう事じゃないんだよ。さすがお嬢様…。
私がはぁ…と頭を抱えていると。
「やった〜!美未これ食べる〜」
美未が勢いよく紙袋から美味しい棒を取り出した。
「美未ーちゃんとお礼言いなさいよ?」
「うん!暦おねーちゃんだーいすき!」
「ちょっ!それお礼じゃないでしょ」
「うんうん!いいよ〜」
「って暦まで何で許してんのさ」
「ん?だって可愛いじゃん」
暦は目をハートにし美未の食べている姿をただただ見ている。
「…暦ってホント美未の前ではキャラ変わるよね」
「そうなのか?」
「え?自覚なかったの?」
あー長年いても暦は偶に分からなくなる。そんな会話をしていると美未が一つ食べ終わったらしく暦の足に捕まる。
「ねぇね!美未な?リフティングできるようになったよ?」
「え!何回出来るようになったの?」
「なな!」
「えー!凄い私5歳の時そんなに出来なかったよ?」
「やったー!じゃあ美未のかちぃ?」
「うん!」
「え?!じゃあじゃあ明後日の試合、うち出れる?」
「うん出れる!」
いや出れないよ?!私は強く心の中でツッコミを入れてしまう。声に出すと美未が泣いちゃうから言えないのだ、何で暦はこんなに甘いんだ?美未はすぐ真に受けるからやめて欲しい。
私は優しく現実を教えることにする姉として教えれることは教えたいし。
「いや〜でも美未は年齢的にちょっときついかな、、?だから大きくなったら私たち?いやそれ以上にきっとなれるよ?」
それは未知ではあるが遠い未来を期待させることで悪いことではないと思ったので伝えてみたが、逆効果だったらしく美未はすぐに暦の後ろに隠れ抱きついている。その本人の表情は真剣だが抱きつかれている暦は顔が緩みきっている。(この顔熊ちゃんとか見たらびっくりするだろうな〜)
「なぁ暦?あんま変に教育せんでな?」
すると?みたいな表情をした後すぐに笑顔に戻りお菓子をあげる暦は犯罪者のそれだった。
私たちはとりあえず暦が持ってきたお菓子を家で食べる事にした。
…何故かお母さんと二人で。
「あら〜暦ちゃんがお姉さんだった方がよかったかしら」
「ほら!お母さんまで!」
「冗談よ。でも本当にお世話が上手よね」
「その冗談笑えないー!…だよね何でなんだろね」
こうしてお母さんもまた皇暦という少女を不思議に思った。
一方その頃美未の部屋にて
「暦おねーちゃんちょっと待ってね」
そういうと美未は何やらガシャガシャと物を漁ります。
「うん待ってる」
それに暦おねーさんは楽しみに待っているようです。
「あ!あった!」
すると美未は何やら見つけたようで。
「え…?これって?」
美未が持つある物に暦おねーちゃんは釘付けなようです。
「ま…まさか」
暦おねーちゃんは何やらドキドキしています。
すると二人は一斉にそれの名前を叫ぶことにしました。
「雫の…」「お姉ちゃんの…」
「「使用済み…」」
って!おい!!!!!!
私はなぜか身の危険を感じそれを止める事に成功。私はすぐにその物を回収し洗濯機に待っていく。
「おい!美未!何で持ってんの!正直に言いなさい!」
私は少し予想はついていた。
「ごめんなさい…で、でも暦おねーちゃんは全然関係ないよ?」
「暦?そりゃ関係ないでしょうけど何でそんなに庇うの?」
私は大袈裟に暦の方を見ながら聞く。
「え!えーっとえーっと…暦おねーちゃんは変態さんだから…」
「変態?あら私でも知らないことよく知ってるね」
「へ…?ち、違うの暦おねーちゃんはサッカーと同じくらいおねーちゃんが好きなの」
流石にまだ5歳問い詰められると直ぐにボロが出てしまう。
「はぁ…ま、いいわ今回は許してあげる」
「え?ほんと?じゃあ誰も悪くない?」
涙目になった美未は直ぐに調子を戻す、何故か暦も解放されたような顔になっている。
「うん美未は悪くないよ?てことで暦私の部屋こよっか」
その瞬間美未は全てを理解し「暦ねーごめんなさい!!」と言いながらお母さんのところへ走っていった。
それから鬼の説教やお菓子を皆で食い終わり夕日が出ていた。それから少し3人でサッカーをして帰ってくると美未は直ぐに寝てしまった。
「暦ちゃん今日もう遅いから泊まってく?」
よく考えたらもうとっくに外は真っ暗だった、暦は家が近いためこんな風によく泊まってバカをする。
そう、水瀬家の中では妹とあまり精神年齢が変わらないので困ったもんだ。
「はい。そうさせて頂ければ助かります」
「え?でも暦急過ぎじゃない?」
「うんだけど多分一人じゃ寝れないかもだから」
そんな暦は本当に妹みたいだった。
「確かにそれもそうだね」
というあまりに軽い感じで今日は暦が家に泊まる事になった。
「暦おねーちゃん今日おとまり?」
夜9時ごろを回った時二人で北山中の試合を研究していると美未がお風呂とご飯のため起きてきた。
「そうだよ〜。あ!そうだ一緒にお風呂入るか」
「うん!暦ねぇご飯食べた?」
「食べたよ〜!ハンバーグだった」
「ハンバーグ?!?!やったー!」
そんな同い年?みたいな会話をした後風呂場に二人で向かった。
「あ!しずねぇも一緒入る?」
「いや何されるか分からないし(暦に!!)」
「何をいってるの雫。美未だってしちゃいけない事くらいわかるな?」
「うん!美未いっつも暦おねーちゃんに教えてもらってるもん!」
「だから…」
「ん?」
「だからダメなんじゃい」
しかし親にも、もう遅いからという事で一緒に入る事になった。
「しずねぇシューっと!」
美未が何やら水鉄砲のようなもので私の体にシュートしてくる。さっきから当ててくる場所が5歳児とは思えない。
「暦あんた教えてるのってこれ?」
「うん」
「…はぁ。本当って!美未さっきから何で胸ばかり当ててくるかな」
「だって暦ねぇがおっきい人に当てると自分もおっきくなるって言ってたもん」
「暦…マジでアンタこれ後輩見たらびっくりだよ??あの部室の前に貼られてある暦先輩豆知識に載るよ?」
「え?何それ」
「…もういい。何でもないから美未をやめさせて」
「美未、代わりに私だゴールは一つじゃないこい!!」
「ちょっと待て!なんかカッコいい感じに言えば流すと思ったの?全然アウトだから」
しかし美未は止まろうとしないので、
「美未?でもそれさ〜?オンゴールになるんじゃない?」
すると美未の体がピタリと止まった。
「そ!そうだった!じゃあ今日はもう、はっととりっく決めたからいいや!」
ハットトリックとは1試合のうちに同じ選手が3点ゴールを決めると貰える物なでこの場合少なくとも三回は当てたという事だ。(多分これも暦が教えたのだろう…やれやれ)
そんな危険なお風呂も無事終わり美未はハンバーグを食べるとまた直ぐに寝てしまった。
私と暦は私の部屋で北山中の試合研究の続きをする事になった。
「やっぱり私たちの止めるべきは北山の七瀬静香と品川沙月ね」
先程とは別人みたいな暦は同じポジションの二人に目をつけた。三年の七瀬静香と品川沙月どちらも短所と長所が被ってないためミッドフィルダーとして不足のないコンビなのだ。
「そうだね…でもやっぱり(3年と2年)辻姉妹の鉄壁をどう破るかもじゃない?」
そう私たち北山の戦績を見る限り(12ー0と13ー2)守りより攻めが強いイメージを持ってしまう。しかし二戦目の2点決められた試合は途中で姉妹とも変えられてからのものらしい…、だから彼女らは今のところ無失点という事になる。
「そうね…正直私でも二人を同時に相手するのは分が悪い」
あの暦ならやってしまいそうだけど…本人のいう通りの実力があるのは否定できない。そして知られざる恐怖がもう一つあった。
「「一年の坂口千尋」」
それは北山唯一、一年で今年から試合に出場している子で。
北山は今年も他は全員三年生なので気になって仕方がない人物だ。
「この子どんだけ上手いの?」
怖いのはそれだけじゃない、何故なら情報がないからだ。
大体誰だって強豪ほど、どんなプレーをするのかどんな癖があるのかなどは調べられ研究されてしまう…。しかしこの子にはそれがなくそれ故か毎試合ハットトリックを決めているという話だ。
「雫、この子に前半ついてくれない?」
そんな提案に思わず息を呑んだ。
「え?…いいけどそしたら七瀬静香と品川皐月は?」
「私が二人相手する」
そういう暦は冗談なんかじゃなく真剣な表情で二人の名前を見ている。
「流石に無茶じゃない?ほら!前戦の人たちを少し下げてみるとか…ね?」
「それで辻姉妹を打開できるの?点は入るの?」
「そ…それは…」
何故彼女がこんなにも点に拘るのか、?それは得失点差だ。
今私たち谷川(3位)と善前(2位)とは差があった。私たちはマイナス1、善前はプラス7。
もし明日の北山(1位)と善前の試合で北山が勝ったとしても点差が開かなかったとき私たちは北山に点をその分取らなければ上には上がれない。
今年の県出場は2校までなので確実に2位に上がらないと次には進む事はできない。現に私たちは善前に大差で負けている、だから周りから見れば不可能という文字は簡単に出てきてしまうだろう。
しかしゼロという事はない相性だってあるしあの時は芽依の事もあってチームは最悪の状況だった。
「はぁ…置かれた状況はいつだって修羅ね。取り敢えず明日は北山を応援しつつ坂口千尋を研究しよう」
こうして明日は早いので一度研究をやめ、電気を消し私のベットで寝むる事にした。
隣で寝る親友の匂いが私のシャンプーと混ざっていい香りが部屋に漂う。
「ねぇ雫?」
そんな暦の声は少し不安そうでしかし顔は暗くてあまりハッキリ分からない。
「どうしたの?」
私は分かっているのに知らないふりをしてみせる。
それは決して大きくない一室、夏でも少し肌寒い夜は親友の熱で少しずつ消えていく。
そして暦は私の頬にキスをする。
それに私も同じように頬に返す。
これは私と暦の緊張の解し方の一つで、
誰にも言えないことでもあり同時に二人の心の揺れが一つになった気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます