第3話 小さな嘘
早くも宿泊4日目まで来ていた。二日後北山中と善前中の試合がありその次の日いよいよ北中戦が始まる。
勝ちのビジョンとして北中が善前中に勝利し私達谷川中が北中に勝つ…。言葉では簡単に言えるこの流れが現実では違う、仮に前者が起きないのであれば私達はその時点で敗北が決まり最後の試合私たちは意味のない試合になってしまう…。一方仮に前者が上手く転び善前中が大敗したとしても…それはチャンスでもあり絶望でもある、何故ならそれは上には上がいるということ。しかしサッカーというもの何が起こるかは分からないそれはサッカーの神様にしか…。
尚今現在 県の順位として…(得失点差)込み
北山中学1位 一回戦 12ー0 二回戦 13ー2 三回戦 善前戦 四回戦 私達
善前中学2位 一回戦 2ー0二回戦 1−0 三回戦 6−1 四回戦 北山中
谷川中学3位 一回戦 2−1 二回戦 3ー0 三回戦 1ー6 四回戦 北山中
4位以降も得失点マイナス2以上勝ち点2以下と絶望的であまりに差が激しすぎる県だと毎年言われている。上が強くすぎて下が弱すぎる、これは田舎あるあるなのかな?
県から出るのは2校まででこの流れで行けば確実に北山中は県進出するだろう。あとは一校 私たち率いる谷川か優子率いる善前か…。
「いや〜熱くなって来ましたねぇ」
朝食を終え今日は残る合宿も半分ということで一時間ミーティングをすることになった。
「芽依、やけに余裕だね」
呆れて言うのは三年生の愛川琴花こと琴ちゃんで前回の試合唯一3年生でスタメンじゃなかった子だ。
「いや〜だってこのが宿泊が始まって早々?後輩ちゃんに愛の告白くらっちゃってねぇ…」
すると誰とも言っていないのに一斉に一年生の熊あかりちゃんの方をみんな視線を集める。これを知っているのは私水瀬雫と皇暦(この子は分かってるのかな?)と張本人二名だ、どっちが被害者かも分からん…。
「ちょ?!愛って違うよね?!暦先輩!!」
熊ちゃんはだいぶ仲良くなったんだろう今までは必要最低限しか暦とは話そうとしなかったのに、でもそれ聞くの?暦に?(笑)
「あかりさん、でも1人じゃないです…!って叫んでたよ。ね?雫」
ほら聞く相手絶対間違ってたよ…。
「うん…まぁそう言ってたね」
「だろだろ?いやーその日から女もありかなーみたいな?」
「芽依、流石にキモい」
津々凛ちゃん三年生が芽依に流石に引いたようで
「りんりん先輩マジそれなです」
熊ちゃんが強く同意してみせる。
そんな雑談の様な会話の後今日の日程を監督と相談しながら話している。
「今日はミニゲームをしてみる。今回俺が見てよかった奴をポジション関係なく指定するので臨機応援に…試合は昼食ってからすぐ始めるからそれまでは各自練習」
その声に皆は返事をするいつもより大きな期待を込めた、それはスタメンじゃない子ほど。
そんな明るい雰囲気のミーティングは終わりを迎えようとしてる時だった。
こっこっ、ドアをノックする音とともに30代くらいの女性が入ってくる。誰だ?と言う声が多い中、私も誰かわからないが見たことある様な気がして
「お母さんっ…!どうして…!」
そう声をあげたのは我らの部長内野芽依だった。
「安斎監督及び先生方芽依は連れて帰りますんで」
そんな急な申し出に先生方は困り安斎監督も何か言いたそうな顔をしている。
「お母さん。急すぎるよ…。それに勉強だってやってるよ…?」
三年生で勉強、この二つの単語を聞けば自然と浮かび上がってくる。
「じゃあ芽依、あなたは試合に出るのですか?」
「っ…!!!!」
芽依は言葉に詰まる。
「来なさい」
芽依のお母さんは芽依を言葉だけやや強引だが説得、引っ張ったりはしないでドアの前でただ言う姿は見た目通りだった。
「…じゃ、じゃあ日曜の試合だけはお願い…します」
日曜の試合、それは北山中と谷川中の試合だ。芽依は俯きがちで悔しそうに拳を強く握る、後方にいた私はそんな姿が視界全体に映る。
「考えておきます」
考えておくという言葉はなんて無責任なんだと思ったが言い返すことはできなかった…。芽依がその後皆に一礼し席を外そうとした時だった。
「芽依さんのお母様…まずはお世話になっております」
そう声を出したのは安斎監督で
「いくら試合に出れないとしてもここまでやって来たことには嘘はないんです、それにこの合宿だって親の同意があっての…」
「親の同意?」
芽依のお母さんは監督の言葉を遮るように
「そんなの聞いておりませんが」
流石の監督も困っていてすぐに芽依の方を向き部員も皆注目を集めた。
「どういうことでしょうか」
芽依に聞く監督の目は鋭くて
「あっちゃ〜ごめんねぇ、実は2年の内には部活辞める予定でねぇー?ほら!芽依あんま頭良くなくて…親が医者ってこともあって…で!でもね?!お母さんも最後の大会までは続けさせてくれたんだよ?芽依が一、二回戦で終わるから…って言ってたから」
芽依は明るく真実を語るように事務的にそんな姿はまるで人形のようで。
「いやぁ〜サッカーのルールとかあんまり知らないお母さんにはもう大会終わったから〜って言ってたんだよね。あの日レッドカードを取った試合」
ごめん嘘ついて、と芽依はお母さんに謝りながらもう一度私達の方に向けて
「いやぁそしたら宿泊始まってさぁ。親の印鑑勝手に使っちゃったりしてね?いやー馬鹿だな私どうせバレるのにねぇ…」
「先輩…」
そう呟いたのは熊ちゃんでそんな声はとても小さく消え入りそうだった。
「だから…応援してるよ?すぐ戻ってくっからそんな顔すんなよ〜!」
そう言う芽依の視線の先には熊ちゃんがいる気がした。
「あと暦〜副部長の仕事増えるけど…」
「うん。わかった」
暦は止めようとしないそんな所も彼女らしくて、でも凄く寂しくて
「でも一、二回戦で負けるって言ったのは…悲しい」
それは意外な一言で彼女らしくない感情だけに任せた言葉だった。
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