第2話 不安の材料
対善中戦を終えた私達は帰りのバスで疲れて寝ているものもいれば、話をしてる子もいるようでそんな中私は隣にいる皇暦こと大活躍をしてくれた小さい頃からの親友の隣に座っている。
「いや〜あんな皆の前で話してる暦初めてみたよ〜」
「私だって副部長だし。それに…雫が困って…そうだった…からぁ」
どんどん小さくなる声と共に暦の頬は赤みを帯び触れた肩は暑かった。
「可愛いなぁ…それに暦ちゃんは若いですなぁ」
「何よそれ…同い年じゃんか」
私達はケラケラ笑い合う。
「いやぁ着いていけんのぉ。まるで孫が離れて行くようじゃ」
何故か私は仙人のような口調で揶揄ってる。
「高校になっても離れたくない…」
ボソッと話した暦の言葉が揶揄いなしで聞こえなかった。耳まで老化した覚えは無いんだけど…。
「え…?なんか言った?」
「うっさい!寝る!」
どうしてしまったのか暦は暫くすると直ぐに眠りについた。寝言のようなことを言っていてそれもまた愛らしかった。
「…勝ちたかったよ」そんな声が聞こえて私は隣にいる暦を抱きしめた。いつもだったら嫌がるそれは寝ているのか抵抗してこない。
「そうだね…」
私は心の底から肯定しもっと強く抱きしめる…。起きてしまうかもしれない…そう思った時暦が震えていることに気づいた。
暦は寝てなんかいなかった、泣き顔を見られたくないのか暦も強く私を抱きしめ鼻を啜る音が聞こえる、いつの間にか車内はみんな眠っていて静かな中2人の鳴き声だけが車内に響いていた。
第63回女子中学サッカー大会 通称中体連
県大会初出場まで…あと一勝というところで私達は6対一という大敗をしていて絶望的な窮地に立たされていた。中体連は得失点差という点差も重要な大会なので相手チームの結果も関係あるのだ。
私達谷川中学の戦績
一回戦 奥野中学に2対1で勝利
二回戦 平野中学に3対0で大勝
三回戦 谷川中学に1対6で大敗
得失点差マイナス1で白星2の黒星1
県進出は一つの県から2校行けて今のところ私達が負けた善前中学三戦無敗。次私たちが当たる北山中は今のところ2戦してどちらも快勝。どちらも二桁勝利という心臓が抉られるような話で、北山中は私たちの前日に三戦目が控えているらしい。私達はあの日が二日後校長先生からの許しを受け泊まりがけで一週間後の北山中戦まで練習合宿になった。
朝のミーティングにて監督からの話がありメンバー全員が今の状況を理解した。その後部長の芽依と暦が今度は前にきて今日の日程を確認する。
「うわぁ結構きついねぇしかも芽依いないんだよ熊〜」
「…その分芽依先輩にはこの合宿で働いてもらいますからね」
この中体連はレッドカードを取ると次の2試合も出れないことになってある。
「わぁーってるって!この芽依様が見守る中特別にあの暦が一対一ずっとしてくれるってよ」
「…って!人任せかよ」
熊ちゃん先輩相手に敬語忘れっちゃてるし…(笑)。
「暦そんなこと言ったの?」
私は暦に本人に尋ねたそんな事あんま言わないし芽依は平気で嘘つくからだ。
「…うん。この一週間付き合ってもらうつもり。叩いちゃったし…攻めの侮辱してたから」
そう言う暦は熊ちゃんのことをじーっとロボットのように見ていて
「芽依先輩、なんか暦先輩めっちゃこっち見てるんですけど」
「うわっまじだ怖えぇ〜。おい雫なんとかしろ」
なんとかしろって言われてもなぁ〜。
「暦〜今日の昼飯唐揚げだってよ〜」
えっっっっっっっ!と暦のビッくりした声が部屋中に響くと同時に暦の顔が沸騰した。
「芽依早く…進行しなさい…!」
「お、おう…じゃあまず今日1日目はゲームはしません!」
芽依の言っているゲームとは試合のことで今日はそれを思い切ってしない!と言うことだ。
「まぁそのなんだ…癖になっているからな」
「どういうことですか?」
熊ちゃんが手をあげて聞く、なんかこの2人距離が縮まってる気がする。
「負け癖ってやつだ大敗した次の練習でまた試合形式で練習してもモチベが上がらないということだ」
「あぁそういうことですね!」
「あぁでもあかりは暦とずっと練習だから関係ないか」
「っ…!!ふ〜ん先輩だって今試合したらまたカード出しちゃいますもんねーだ!」
熊ちゃんは笑顔で芽依も笑顔でこれをもうネタにできるこの人たちには驚かされてばかりで、みんなもその2人のいつも通りの会話を微笑ましそうに見ていた。そんな中不思議そうにしている副部長が私を見ていて
「雫なんであかりさん私との練習嫌そうなん?叩いたからかな?」
それをただ真面目にみんなの前で聞ける暦はすごいです。なんてことは言わず、
「熊ちゃんに聞くのが早いかな〜あははは」
ごめん熊ちゃん!!もうこれしかないの!
「ちょっ!しじゅくせんぱぉいぃ!!?」
噛み噛みの熊ちゃんに気にもせず暦はじーっと見ている。そう…いつも何故か私を通してじゃあまり話さないのだ、サッカーのこと以外。
「こよみ先…輩あのぉ…別に嫌とかじゃなくてですね?」
じー。
「あのぉ!そのアレです…先輩も私と2人じゃ気まずいかなぁとか」
じー。
「じゃなくてですね!?やっぱ暦先輩の足技は私だけに使うのはもったいないかなぁみたいな?いやーほんとそんけーだな〜」
じー。
「…とか嘘ついてみちゃって?!めっちゃ独り占めできるのうれっしー!!」
にこり。これが私以外との暦の会話で、ニコッとしたら暦の会話に終了のホイッスルが鳴ったという合図らしい…。これは暦豆知識の一つとして部室のドアに貼られてある。ちなみに暦はサッカーと私(?)以外は興味がないらしく本人はその紙を読んだことすらないらしい。
ということで合宿1日目が始まった。結局熊ちゃんと暦には芽依ちゃんがつくことになって多分一対二で練習だろう…。それでも暦は多分負けない。
他の私達はシュート練習をベースとして監督の指示でいつもやってないポジションの練習が多かった。この合宿でメンバーは変わることだってある、だから私も取られないように頑張らなくちゃと思う。
練習を終え結局途中休憩の昼休み唐揚げは出なくてそのまま夜ご飯がやってきた。
「いやぁお疲れ〜」
「お疲れっっす」「お疲れ様〜」「乙〜」
などと他のメンバーも挨拶する中私は少し離れた練習コートに足を運んだ。
「おっ!まだやってるじゃん」
「雫〜」「しずぅくせんぱ〜い」
暦が手を振る中涙目で熊ちゃんが私のところにやってくる。大体この展開だと想像がつく。
「熊ちゃん芽依どこいったの?」
「なんか同じセンターバックの月先輩呼んでくるとか言って帰ってこなくて」
「あいつ…てかそれ何時よ」
「昼の3時くらいからずっと暦先輩に怒られながら一対一でした…」
「あはは…って笑えねぇそれ」
ってか待てよ?私は思い出す先程の終わった後のみんなの挨拶‥「乙〜」という声それは他でもない芽依だった。
「ごめん…全く気づかなかった。で、でも!もう夜飯の時間だから、ね?」
「そ、それが暦先輩が」
そういう暦はまだまだやる気に満ち溢れてて
「なんか今日一回でも私止めないと終われません!とか言い出して」
「…あぁいつものだ」
「げっ!いつも何すか」
「あ…うんうん。小さい時から暦は重要な試合で負けた後はいつもあぁなの…。それがいい事なのか悪い事なのかね。ほら!やりすぎは返って毒じゃない?なんでも程々が一番なんだけどね。でもまぁしょうがないんだよね何かで躓いた時それに向かって努力する、それが皇暦という彼女の不安をとる材料なんだよ」
熊ちゃんは私をマジマジと見ていて
「あっ!でもガツンと私から言っとくから今日は帰っていいよ?」
私はそう言って新しくシュート練をし始めた暦のところへ向かった。
「暦〜夜ご飯唐揚げだってよ〜!」
結局ガツンとは言えない私に暦はじーっと見ていて
「雫、嘘ばっかつく」
「嘘じゃないよ〜ほら昼はさ、その…はるちゃんが言っててね?」
「陽菜が?嘘だったら明日キーパー練こっちでやらせてやる…」
「え?でもはるちゃんしかキーパーいないんだからキツイよ?」
「いやそっちは安藤監督にやらせればいい」
この子何言ってるの怖い。
「もう…とりあえず今日は、ね?」
「嫌」
「嫌って今日もうだいぶやったよ?それに監督に怒られるし」
私は暦の手を握り連れていこうとする。
「ほらっボールとか片付けはいいってここの宿の方言ってくれたし」
「嫌。夜ご飯くらい食べなくていい」
「いやいや私は食べないと死んじゃうよ?」
「それはダメ…だから1人でするから雫帰って」
あぁこれは結構ひどい時の暦だ、熊ちゃんよく耐えたねこれ。
「暦?不安なのは皆一緒だよ?一二年生は次あるかもしれない。でも当たり前だけど私たちとできるのは彼女らだってもう最後なの。だからこそ三年生の私たちにはできるだけ笑顔でいて欲しいと思うそれがあの子達にとっての不安をとる材料なの」
そういうと暦はボールから私へと視線を変え
「分かった…でもあかりさん後ろきてる」
「え?!」
後ろを向くとさっき帰らせたはずの熊ちゃんがいて
「熊ちゃん忘れ物とかだよね?」
「いえ違います暦先輩を止めに来ました」
止めに来た、それは説得ではなくサッカーの話だろう。
「さっきの話で感化させちゃった?」
そんな私の質問に答えようともせず。
「雫もう少しだけ」「雫先輩は見ててください」
2人とも当たり前のようにボールを持った。
ということで何故か一対一が始まり私はキーパーをさせられていてこれは暦の指示だ。
そして暦がパスを出しそれを熊ちゃんが返す、これが一対一の始まる合図だ。
暦がいつも通り自分の世界に入る、それはまるで生きる機会のように…暦が左にフェイクをかけそれに少し熊ちゃんが反応する私はというものめちゃめちゃ左を警戒してゴールの左側に体を寄せちゃっている。(守備あんま得意じゃないの!)
すると暦は右にボールを滑らしたかと思えばそれすらもフェイクで左へと切り返しを入れる。しかし…熊ちゃんは騙されない熊ちゃんの足が暦のボールへと近づいたと思った瞬間、暦はダブルタッチをし熊ちゃんをかわしてみせる。そこからはわかるでしょ?暦の強烈なシュートとキーパー経験ゼロの私、簡単にゴールネットは揺れました。
それから5回ほどして何度か惜しい場面もあったがゴールネットが揺れないのは一度もなかった。
「くっ…!こうなったら私と交代じゃい熊ちゃん!」
「え…?先輩でもそれ意味あるんですかね」
「あるある…!ね?暦」
「うん…まぁ雫とできるしいいよ」
ほらね?
「いやそういう意味じゃなくて…」
熊ちゃんが言おうとしたことは何故か聞かない方がいい気がしたので聞かないでおく。
その後5回熊ちゃんみたいに惜しいシーンすらなく負け続け。
「もう、じゃ〜2人ディフェンスでいいよ」
という同情をくらい渋々そうすることにしようとした瞬間だった。
「ちょっと待ったーーーーーーーーーー!!!!!!」
そこにもぐもぐしながらパジャマにスパイクという変な姿でやって来たのは…
芽依だった。
「「おいテメェ」」
私と熊ちゃんの言葉が被る。熊ちゃん…タメぐt…いやいやどんどん言ったれ!
「いや〜ごめんごめん。宿にさ〜めっちゃ!!イケメンおってその人にjcの色気で話しかけてでなぁその人彼女おってん。めっちゃ怒られてたんよ…あははっ!」
おい何言ってんのこの人。てかなにjcの色気って。
「まぁまぁそんな事言いに来たんじゃなくて…私がコヤツを止めちゃるってことよ」
「はぁ。先輩じゃあこれ止めたら許してやりますですよ」
疲れてタメ口と敬語が混ざる熊ちゃんと私はジャンケンをしキーパーを決めた、結果熊ちゃんになって良かったぁ…と思う私であった。
そして本当にラストの一対一が始まった。暦が芽依にパスを出しそれを芽依が返す。
「では行きます」
「はよこんかい!このサッカー馬鹿め」
暦のシザースが始まる、シザースとはボールの周りを足で回すタイプのフェイントで割とマイナーな技でありこの技のコツとして跨ぐスピードが速すぎず遅すぎずで跨ぐタイミングや右左で跨いだりすることで、より相手を惑わすことができる。暦は100パーセントではないものの得意としている技なのでキレが違う…流石の芽依も足がふらついている様に見える。そしてフェイントを繰り返したあと遂に緩急をつけた仕掛けを繰り出す暦、しかし流石の芽依もついて来れている…これは長年やって来た証拠だろう。
「あかり!!!!はぁ…はぁ…さっき言った通りやからな?な??」
何やら叫ぶ芽依とその声に合わせて少し前に出てくる熊ちゃん。すると芽依は左にあからさまにわざと足を出した。
「今や!!!!!!!!」
そう叫ぶと同時にその左に出した足を難なく右にかわした暦…でも暦がかわした方向には…そう!!熊ちゃんだ!!!
「いっけーーーー!!!」
熊ちゃんは遂に暦のボールをがっつり手で取った。
「か、勝った…暦先輩に2人で勝ったぞー!芽依先輩!!!」
「流石だなあかり、いい守備だったよ」
「こっちのセリフですよ」
これはありなのか?と思った私だったが暦が意外に満足そうなので触れないでおくお腹すいたし。
「芽依先輩」
「なんだ?」
「あの…私絶対次の北中に勝って先輩と県大会出るんで…その…あれです、えっと…先輩は1人じゃないですから…!!」
熊ちゃんは何やら恥ずかしそうに言い切った様な顔で芽依を見る。
「おう!!!待ってる!!私のほうこそあんとき頼れなくてすまない…私のいない2試合という大きな壁…頼ってもいいか?」
それから熊ちゃんは叫んだ宿泊のイケメンさんにも届くんじゃないかってくらいの声量で。
「勿論です!!!!!!!!!」と言い切った。
それから私達は宿に帰ると唐揚げと書いてあった名札に今日の分は売り切れと書いてあって野菜とご飯とお味噌汁が残っていた。
「う、うちの唐揚げ…」
暦これはあんたが悪いよ。でもそんな事より一つ言いたいことが私にはあった。
「ねぇ。暦?」
「何…?」
「ありがと」
すると暦は不思議そうに私を見つめた後すぐにご飯を注ぎに向かった。
こうして私達の宿泊は1日目を終える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます