ネットを揺らせ!
美波
第1話 私達はサッカーを愛している
サッカー
それは多くのモノを魅了するスポーツとして誰もが知るスポーツだろう。
男子女子問わず熱く盛り上がり時には涙するモノもいるくらいで…それは選手はもちろん観戦している多くの人や監督だったり。
それに他のスポーツと比べ足を使うのが基本であるスポーツだ。手を使うのはキーパーやスローインの時くらいなので器用じゃないとできないとまで言われている。
そんなサッカーに、ある少女も夢中になっていた。
「おとーちゃん!おとーちゃん!うちミットフィルダーしたい‥!」
当時5歳の水瀬雫は目をキラキラ輝かしている。ミットフィルダーとは別名ボランチ、中盤なんて呼ばれ方をするポジションの名前で‥攻めも守りもしなくてはならないチームの核、なんて言われているポジションだ。
「そうか〜雫。コートに立った時真ん中おんのかっこいいもんな?でも足技、ポゼッション、周りを見る力がいるから難しいポジション…でもあるからな〜てことでとーちゃんと練習するか」
「うん!する〜!」
雫は当時憧れの選手のガッツポーズを真似しながら半年くらいで貯めた5000円のサッカーボールを握りしめ今日も近くの公園で練習をした。田舎生まれの雫は近くにクラブチームがなかった為、中学まではほぼ独学だった。
中にはこんな少女もいた。
都会生まれ都会育ちでお金にも恵まれた少女もこのサッカーにのめり込んでいた。そんな少女目黒咲は3歳で海外が支援する日本で数少ないクラブチームに入った。目黒咲は才能にも恵まれ中一にしてユースにまで選ばれた。そんな2人は実績も違えば住んでいるところの環境も違う…
でも一つの共通点があった…
それは彼女らには大きなもので
只々サッカーが好きということ。これだけは変わらなかった。
雫15歳中学3年夏。
「おとーちゃん。行ってくる」
「おう!今までの成果出してこいよ」
試合開始20分前、私は観戦に来ていたおとーちゃんとグータッチをし、谷川中学側のテントに行く。左腕にはキャプテンマーク右手首にお気に入りのリストバンド。谷川中学のユニフォームは青をベースとし番号が黒でとても引き締まった感じだ。田舎の中学の私達は初めての3回戦進出という事で全校89人で全校応援にきている。相手は県出場を二度もしている善前中学で何故か田舎なのに毎年の強豪が2校あった。私が1年2年の時もこの2校が県進出していた。ちなみにもう一校は去年全国3位にまで行った北山中学。
「皆。ここ勝って流れ掴むぞ!」
エンジンを組み私は声を張るそれぞれ三年生7人二年生3人一年生5人が一つになる。
「スターディングメンバーを発表する」
監督がそう言うとみんなの顔が引き締まる。コートに入れるのは11人、部員は15人なので4人入れないのだ‥固定してきているメンバーもいるが一年生が多いためポジションを取られたくない先輩だっている。
「まず今日もいつも通り4ー4ー2で行くぞ」
4−4−2とは簡単に言えば人の配置のようなものだ。野球とは違いサッカーは人数さえ守れば攻めの人数を増やそうが守りを増やそうが中盤を増やそうができるわけでそこもサッカーの面白さだと私は思う。4ー4ー2とは前からDW(守備陣)MF(中盤)FW(攻撃陣)って感じ。
「えぇまずキーパー。背番号一番山下陽菜」
「はいっ!」
大きく返事をしたのは学校唯一の3年生キーパー、通称はるちゃん。背が高く反射神経のある彼女はまさにキーパー向きである。はるちゃん‥今日もビックセーブお願い…!
「次!ディフェンスから‥センターバックの2人。4番熊2番内野」
「「はいっ!!!」」
熊あかりちゃんと内野芽依ちゃん。熊ちゃんは一年生でセンターバックを任されるくらいキック力に長けていてメイちゃんは三年生で一番声が大きくセンターバックにとても向いていて部長でもある。
「左バック、5番千代田。右バック、3番鈴」
「はい!」「うん」
鈴ちゃんは3年生で監督の娘なのでこのようにタメ口になる。
「おい。鈴ちゃんと気合入ってるか?」
そんな鈴ちゃんは緊張でおとーさんに何やら手でシーっ!とやっている。そんな親子のやり取りでいつも皆が笑顔になる、だから新人戦の時も結構感謝してる。勢いよく言った千代田ちゃんは2年生でこっちも緊張してるみたい。
「ちーちゃん。大丈夫だよ緊張は3年生も同じだから」
隣にいたメイちゃんがそう言うとペコリと頭を下げていた。それプレッシャーじゃない?大丈夫?(笑)
「じゃあ次ボランチ2人水瀬と皇」
「「はいっ!」」
3年生2人で私とその親友でもある皇暦は副部長で足元の技術はこの子がトップだろう。
「暦。よろしくね!今日もちょー綺麗なスルーパス期待してる」
「しず。アンタそれFWのセリフだからね?!?!」
「えへへ」
私は笑って誤魔化す。暦ちゃんは思い詰めやすいから私のボケが必要なのだ!すごいでしょ!私のボケ!(半分本気…苦笑)
すると監督が咳払いをし進める。
「左サイドハーフ、池下。右、上内」
「…はい!」「はい!」
ダブル2年生の池下春乃ちゃんはいつも後半だったので少し反応に困っていた。いつもポジション争いしてる琴ちゃんこと愛川琴花ちゃん三年生と目があっている気がした。するとメイちゃんが
「琴〜顔怖いぞ〜!」
そんな茶化しに監督の声聞こえな〜いなんてことちゃんが言ってる。
「じゃあ最後にトップとトップ下。津々と北」
「「はいっ!」」
津々凛ちゃん三年生と北ちゃん一年生。津々ちゃんはスピードがあって北ちゃんはどちらかと云うと球際が強いタイプだ。
そしてスターティングメンバーが決まった。後半に出る琴ちゃんと他の一年生3人はベンチで応援で私達はコートに並ぶ。
「おい…!相手黒人いるぞ‥!デケェ」
「メイちゃん先輩ふざけないでください」
芽依ちゃんを叱る同じセンターバックの熊ちゃん…!どっちが先輩なのか分からないこの光景は日常茶飯事だ。
そして前半の笛が鳴る。私達は前半は相手の出方を見た。中盤の私と暦を起点としてあまり急ぎすぎず攻めることよりかは繋ぐことに意識を傾けた。暦ちゃんの正確なサイドチェンジで相手は翻弄しサイドが結構ばててきている気がした。それでも強豪…日々の辛い練習が目にみえるように伝わった。前半終了間際暦のシュートでコーナーキックのチャンスを獲得した。
未だ0対0…
ここで均衡を破ればいい終わり方で前半最後のチャンスだろう。
キッカーは右バックの鈴ちゃんで
「鈴〜からぶんなよ〜」
監督のその声に「うっさい」と一蹴。この光景を見て親子と知らない敵チームは変なプレッシャーだと思う、だって監督に反発できるのなんてキャプテン翼のキャラくらいだもん…。
そんなプレッシャーが掛かったのか敵チームの頭にきたボールをクリアではなく後ろに流してしまうというミスをした。
「や、ヤベェ」
敵チームの1人が叫ぶ。転がった先にいたのは…
暦だった…!!
暦は自慢の右足で左に回転をかけキーパーの裏をつき…
そしてネットを揺らす。
その瞬間みんなが叫ぶ。その瞬間前半を終えるホイッスルがなった。
後半それは唐突に始まった…私たちのチームは昔からはじめに弱かった、死に物狂いに取った一点を簡単に返されてしまう。私は流れを切るためチームに呼びかける。
「みんな〜今から今から〜!まだ始まったばっかだよ〜」
しかしチームの顔色は3年生メンバーが特に悪かった。
それは…決めたのが後半から入ってきた、菊優子という3年生で。
それは前まで私たちのチームにいた子で只々引っ越したとかではない理由が裏にはあった。
あからさまにその中でも顔色の悪い芽依ちゃん、事情も知るはずもない一年生の同じセンターバックの熊ちゃんはいつも通りの感じで聞いている。
「メイちゃん先輩。何か言われてましたけど知り合いかなんかなんですか?」
「あんな奴しらねぇよ」
いつもの芽依ちゃんの変わりように流石の熊ちゃんもあまりに分かりやすく萎縮している。
それから私達は切り替えられずにもう一点決められ3対1と窮地に立たされていた。
一点
一点が欲しい。
何かこの流れを変えるワンプレーでもいい
視界を邪魔する汗が目に入ってくるたびストレスと自分の疲れを思い知る。
肺が痛い…その度に思うもっと走り込みをしておけば…という怒り
足が上がらない…そう感じるたびにもっとサボらずすればよかったなと思う室内練習
そんなこと考えるたび相手の動きは早くなる気がしてくる。
そんな時芽依ちゃんがファールを起こした…
ぴーーーーーーーー!という主審の笛と共にカードを取り出す。
そしてそこで上げた主審のカードの色
はまるで赤血球のように濃ゆい赤だった。
試合後の反省会…結局6対1で負けた私達の目の前には監督がいてそんな監督はいつも通り優しい顔で…違うこんな時だからこそ冷静にしているのだ。
そして静まるチームは決していい雰囲気とは言えない。
私も流れを変えようとしたがそれをコート上ではできなかったのか
という哀れさを痛感し言葉を出せないままでいた。
芽依ちゃんという部長が退場したことはそれほどに大きかった。
「芽依ちゃん先輩…」
「何」
熊ちゃんはあれから遠慮がちだそれがプレーにも出ていた気がする。
「あの時…なんでエリア内で削ったんですか‥」
「は?それ?喧嘩売ってんの」
確かにそう捉えてもおかしくなかった熊ちゃんが言ってることはなんでカードを貰ったの?と言っているのとさほど変わらない。
「…私。後ろにいましたエリア内ってのは先輩もわかってたはずです。先輩がかわされても私がいるそれに山下先輩だっているじゃないですか」
キーパーのはるちゃんはまさかの飛び火でびくりとする。
「…じゃあお前は私以上に止められるって言いたいの?」
明らかに芽依ちゃんの声のトーンが下がった。
「…違います‥そういうんじゃなくて…1人より…2人の方が確率は高いって話です」
「アイツは私が止めないと意味ないのよ」
アイツ、その先にいるのは他でもない菊優子のこと。
「…先輩それどういう意味です?やっぱり知り合いだったってことですよね」
「あぁ!そうだよ。アイツは元々このチームでしかも部長候補だった、私なんかより内面もある奴だからな…。でもアイツは私との喧嘩で学校を変えた、理由が理由だから…私は暫く部活に顔出せなくなった…そんなある日お前ら一年が部活に入ってきた」
「あぁだから最初。先輩いなかったんですね」
他の一年生がつぶやく
「私はアイツを見返すためだけに中学の最後の一年を死に物狂いでした。慣れない部長なんかしてよ」
「…それなんで話さなかったんですか」
「いや…そんな余裕ねぇよ…試合中だし」
「違います別にいつだって良かったじゃないですか。先輩はいつもそうです、周りを不器用ながら和ませようとするくせに自分自身の事は後回し。それだから今回も全部自分だけの勝負として考えた結果じゃないですか」
「あかり!そんな言い方ないよ!」「そうだよ!お前一回頭冷やせよ!」
サイドハーフの二年生コンビが一斉に注意する。
「FWは関係ねぇよ!大体お前らがいつまで経っても攻めねぇから」
ばしっっっっっっっ!カラッとした乾いた音とともに響き渡る衝撃の光景。
熊ちゃんの頬を叩いたのはサイドハーフの2人でもなく芽依ちゃんでもなく私でもなく…それは意外な人物だった。
それは私の親友であり同じMFの今日一点を決めた暦だったのだ。
「…こ、よみ先輩」
誰もが驚いていた。
勉強もできてサッカーも一番上手くあまり感情を外に出さない彼女はいい意味でロボットのようだと言われていた、彼女からはあまりにも似つかわしくない程に儚く消え入りそうな…そんな少女の顔で…涙を浮かべている。
「あかりさん…私…どんなプレーも評価すべきだと思うのよね」
彼女は淡々と話し始める…。
「例えばオンゴールを決めてしまった時コート外にいるものはただのオンゴール、で片付けるかもしれない。でもコート内に居るものは敵仲間関係なく同情するだろうそれは情けなんかじゃない。もっと熱くて厚い同情。それが分かるのはスポーツマンだけであかりさんはまだそれに気づけてないのよ。だからそれはコート外にいるただの傍観者に過ぎないのよ」
暦がこんな大勢の前で話すのは私でも見るのは初めてで
「それに芽依!あんたも!」
「はっはい!」
「あんたもっと周りを信じなさい。それにあれ本当はレットには怪しい判定だし」
それにみんなが驚き監督がうんうんと首を縦にふる。
「あんた始まる時、黒人いる〜とか言ってなかった?」
「はい。言ってました」
「そういうのって意外と審判見てたりするのよ?審判だって人間、スポーツにおいて情は捨てるのが当たり前。でもいくらプロといっても責任という緊張を抱えてるのだからちょっとした時そういうのが響いてたりするのよ。こういうのをなんていうか分かる?」
「いや分からないってなんで私なの?!」
急に私に振ってくるこの親友恐るべし。
「不器用な女!芽依!リピートアフターミー?」
それに渋々何故か熊ちゃんまで2人で呪文のように唱える2人を満足そうに見る私の親友。
彼女の隠された才能にまた驚かされる私達一同でした。
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