第6話 対決
そして、柏木会長による味見の時間になった。茜ハウスの営業は休みにしていたが、店には立会人の横山商工会副会長のほかにも多くの常連たちが勝負の結果を見極めようとして押しかけていた。
テーブル席に着いた柏木会長の前に、七瀬が鯛めしを炊いた羽釜を運んだ。蓋を開けてかき混ぜる。いい香りが立ち上る。そして、鯛めしの赤い色に立会人たちは息を呑んだ。
七瀬は鯛めしを茶碗についで、柏木の前に置く。
「色は確かに赤色や。だが、味はどうかな」
柏木は厳しい顔をしたまま、鯛めしを口に運び頬張る。ひと噛みふた噛みするとその表情が変わった。目は大きく見開かれ、頬が緩んだ。噛む動作が続くうち、目尻が下がっていく。だんだん口の中のものが減ったのであろう。噛む動作は小さくなっていったが、名残を惜しむように続いている。やがて口の動きが止まった。
「どうですか? 気に入っていただけましたか?」
七瀬の言葉に柏木は顔をしかめた。
「ま、まだだ」
茶碗から二口目を取り頬張る。一口目と同じ表情、動作が繰り返され、口の中のものが無くなると次の一口へ。それが繰り返され、茶碗は空になった。
「どうですか?」
「ううむ……」
「おいしくないのであれば、これは引き揚げますね」
七瀬はまだ鯛めしの残る羽釜を持ち上げようとする。
「わかった。うまか、おいしかよ。認めっからそれば食べさせてくれ」
「それでは……。はい、どうぞ」
七瀬は茶碗にご飯をよそい、柏木はそれを奪い取るように受け取って食らいついた。更に、羽釜に残ったご飯も求める。そして、柏木は全ての鯛めしを食べつくした。
「柏木会長、赤をイメージカラーに加え、茜ハウスの塗り直しはなしということでいいですか?」
「やむば得ん、そうすっばい。会議んメンバーはわしが説明、説得して回る」
「ありがとうございます」
「おおーっ」
常連たちから喝采が上がった。常連の一人、田崎が茜に声をかける。
「よかったたいね。茜ばあちゃん」
茜はその声に応えず、心配そうな表情で七瀬を見つめていた。
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