「占いの館・スカート・窓ガラス」

 試験が近くなると家で長時間勉強を続けるのは困難になる。

 静かな環境ではあるのだが、それが逆に無音が気になる状態を作り上げてしまう。

 だから私はカフェに向かい参考書とノートを開く。

 優雅な店内BGMに加え、適度な環境音が日常を感じさせ、集中力が途切れにくくなる。これが非常に捗るのだ。


 ただチェーン展開をしているようなお店だと、利用客の民度に左右されたり時間帯によっては騒がしいケースがあるので、落ち着いて腰を下ろすのにもチョイスが重要になる。

 そういった経験を経て、作業環境に向いた所は、個人経営を中心とした店舗や、少し値段設定の高めな所がベストだと行き着いた。


 そんな中で最近行きつけとなっているお店は、インターネットにも載っていない隠れ家的なカフェ。

 その出会いは、良い環境の店はないのかと勉強よりもカフェ巡りがメインになりかけつつあった頃、この店を偶然見つけた。

 人通りもそこそこある道路に面しているが、漆色の潜戸を抜けた通路の先に入り口と看板があり、一見私有地の用に見えるので、看板に気づけた人のみがお店だと理解できる構造となっていた。


 店内の内装はお店に入るまでのモダンな印象とは違い、テーブルや椅子など茶色を基調としていてどこか老舗な雰囲気を醸し出している。この温かみのある内装とレコードからのBGMを含め、落ち着いた店内はまさに理想としていたものだった。と、全てにおいて理想だと思っていたこの店も、ある事が気になりだしてからは合間合間で集中力を欠いてしまうようになった。


 店内入り口とは真逆の方に、大きな窓ガラスに隣した席がある。勉強を含め利用している事情をマスターが汲んでくれて、「この席だったら明るさも十分で店内の導線になっていないから人通りも少なく集中できるよ」と当てがってくれた。言わば私用の常連客としての席になっている。

 そんな好意をもって勧めてくれた席から、窓ガラス越しに見える景色にすごく異物さを感じていた。


「スカート占いの館」そう書かれた店がある。


 名前通りにおそらく占い屋なのだろうが、そもそもスカート占いって一体何なんだ。スカートで占うのかスカートを占うのか良くわからない上、女性専用なのかとも感じたが、稀に男性客一人で入っていく姿も見かけるのでこれがもうよくわからなくて気になってしょうがない。


 そわそわと繰り返し考えてしまい、勉強が身になっていない事を察した。

 今回のテストの結果はちょっとヤバいかもしれない。

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毎日習作小説 輪子綸子 @wakkorinzu

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