「プール・メイド・天使」

 僕の家にはメイドがいる。

 可愛いとか美しいなんかで表現していいのか分からないけど、天使のメイドがいる。

 天使のように可愛いなんていう形容詞ではない。

 天使のメイドだ。メイドをしているのが天使なのだ。

 プールサイド、その事実に確かにと納得しながらも眩しい日差しを手で遮っていた。


 僕は高校入学して間もなく両親を失い、だだっ広い家に一人となった。

 莫大というほどでもないが、財産と不動産から発生する不労所得も合わさり、お金には困っていなかった。

 だから、このだだっ広い家の管理は一人では無理だということで人を雇うことにした。

 今となっては正直に言えるけど、寂しさを埋めたいとかいう気持ちはたぶんあったと思う。


 生前から両親の不動産事業を手伝っている方がいる。

 その女性は両親の手伝いだけではなく、世界中を飛び回り古物商をはじめとする輸入業なんかを個人で営んでいる。その中で人材派遣業も行っていると昔両親から聞いていたので、それを頼りに紹介を頼んだのが彼女と出会った切っ掛けだった。

 不動産関係の書類をまとめにうちに来た時に、お手伝いさんを雇いたいからと申し入れる。

 いつも仕事ができるクールな顔で印象付いていた彼女が、ニヤッと笑い告げる。


「おお~、や~っと決心したのかい。だとしたらお姉さんを是非とも任せておきなさい!最高に仕事のできる人物に心当たりがある、ただ時間はかかると思うからちょっちまっててネ」


別れ際あざとらしくウインクをして去っていく姿を見て、年甲斐にもなく、と言ったらヘッドロックを貰ってしまいそうだから口には出さなかった。

 

 その日から2か月後に彼女はその人と共に僕の元へやってきた。

 条件は住み場所の提供と日曜日は礼拝の時間を確保すること。その2点だけだった。

 幸い不動産業もやっているので住み場所には困らないし、何なら日曜日は休日にしてもらおうとは思っていたので何も問題なかった。「ではそのように」と、すんなり契約かと思いきや、お姉さんの悪巧みにより住む部屋はいっぱいあるからここで暮らしちゃいなという強い押しで変な方向に転がり、結局一緒に住まうこととなった。


 形の上では同棲の扱いにはなっているけど、別段僕とメイドとの関係に深くかかわることは無かった。

 あまりにも絵画的な美しさを持つメイドにやや気圧されている事がなかなか踏み込んだことを聞けずにいた。


 そんな一人で勝手にぎくしゃくとしているメイドとの生活も月日は過ぎ、季節は夏となる。

 そして、この夏のように熱く燃え上がる思いを初めて知ることとなる。

 それは、僕のメイドがメイドではないことを知った最初の夏だった。

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