「銀行、輪ゴム、めがね」
人的ミスを減らす為ということで、20年前から新労働基準法の施行により労働用アンドロイドの導入が始まった。
この法を境に、多くの労働者は、人間からアンドロイドへと代わっていった。
最初は計算労働や機械的な反復で成り立つ労働の入れ替えからはじまり、機械設計技術やAIが発達したことにより多くの仕事がアンドロイドへと変わった。
それにより比例する形で、仕事を奪われる形で働き先を失った人達によるデモが増えたことが今でも社会問題となっている。それは今の職場の銀行でも例外ではなく、悪戯や悪質なクレームが頻発に起きて困っている。
真に人間の気持ちを分かるのは人だけなように、対面業務をアンドロイドにすべて任せているこの銀行にも、温かみがないなどのクレームは多数寄せられている。
そりゃあ、全アンドロイドが七三分けかおでこを出したポニーテールのみで、もれなく眼鏡を装着しているとなれば、こんなコテコテな昭和な格好を多様化した昨今でしていては、堅っ苦しい印象を与えてしまうとは自分も思う。
このような、時代を逆行しているようなチープさに目をつけられて悪戯をされているのではと感じてしまう。
アンドロイド共通にされる悪戯として、間接固めという悪戯がある。
旧型のアンドロイドは間接に隙間が空いておりそこに輪ゴムを入れると関節のモーターに引っ掛かり動けなくなってしまう。
それを防ぐために開発された新型は皮膚をもっており、異物混入を防ぐことには成功したが、指と手首を輪ゴムで縛ることによりモーターの誤作動を起こしてしまう事が有志によって発見されてしまう。
その様相は、肘を横に突き出して、縛られた指と手首が胸の前で離れたりくっついたりして、ドラミングのような姿になる。
そのへんてこな動きをSNSに投稿して、バズりを狙う事や抗議の手段として用いられていた。
そんな悪戯に困っているとのことだが、今まさにその犯行が私の目の前で行われようとしていた。
フードを被った青年2人が銀行に入ってきてから、何もせず店内をうかがって明らかに監視カメラの位置や外からの視認性を確認していた。店内のお客がいなくなったすぐに青年たちは動き出した。
「こいつら全部かためたったら10万バズシェア軽くいくっしょ!」
「それな!間違いないっしょ!」
やんべやんべと、ヘラヘラ笑いながらポケットから輪ゴムを取り出して端のアンドロイドから固めていく。
やれやれ、私が見ているとも知らずやってくれたな青年たちよ。万が一固められた後に壊されてもかなわないのでここらでキツく叱ってやろう。
「君たちが行っている行為はれっきとした犯罪です!直ちに止まり手を後ろで組みなさい!」
自分に掛けられていた指や手首の輪ゴムを外しながら立ち上がり青年たちを見据える。ギョッとした青年たちは一目散に逃げ去ろうとするも、既に出入口はロックをかけており、出られないことで悟ったのかその場に青年たちは座り込んだ。まもなく警察がやってきて事の顛末を伝えなんとか本日は事なきを得たのだった。
かくいう私もアンドロイドと仕事を代わり、途方に暮れていた時期があった。
だがアンドロイドに対する悪戯が社会現象となり、そういったニュースを眺めていた中で突如閃いたこの防犯システム「ドッキリアンドロイドなりきりパトロール」がみごと好評となり全国的に展開できる企業となった。
その需要の高さから、零れ落ちた労働者のセーフティーネットとなっていることに、経験してきた身からとても責任感と誇りを感じている。
それに加えアンドロイドではないと知った時に見られる、犯人たちの騙された顔がとても愉快なのだ。
今日も残り2件の仕事が残っている。運が良ければと言えば失礼になってしまうので、運が悪ければまたあの愉快な顔が見れるかもしれない。
人間らしく高揚した足取りで次の現場に向かうのだった。
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